
個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
稲作農家にとって、稲作一本で勝負するか、それとも転作作物の作付けで補助金収入を得るかは、重要な選択の一つです。どちらが高所得を実現できるのか、誰もが気になるところではないでしょうか。
また、稲作農閑期を利用して露地野菜などの水田作物以外を作付け、多角化することは所得にとってプラスになるのでしょうか?
今回は2019年度の農業簿記データを使って、この疑問に迫ってみたいと思います。
こちらの図は販売金額が同規模の農家を、「稲作のみ」「稲+野菜」」「普通作(稲+麦または大豆)」「普通作+野菜」のグループに分け、所得の金額や所得率(世帯農業所得÷収入金額)、雑収入などを比較したものです。
「稲作のみ」は、農業所得や所得率などの面で有利とは言えません。逆に、最も所得と所得率が高いのは「普通作+野菜」です。
それなら、稲と麦・大豆と一緒に野菜を作付ければ高所得が狙えるのでしょうか?
野菜を含めた複合農業には人手が必要
こちらの図は「野菜作付なし」「野菜作付あり」の場合の「専従者の人数」「雇人の延べ日数」を比較したものです。
※野菜作付なし:「稲作のみ」「普通作」をあわせて集計
※野菜作付あり:「稲作+野菜」「普通作+野菜」をあわせて集計
※雇人の延べ日数:雇人1人で年間すべての仕事をしたと仮定した場合の雇用日数
このデータが示す事実は、水田作物と一緒に野菜を作付けるには、人手が必要ということです。つまり、稲作だけを少人数で行っている農家が野菜に着手すると、手が回らなくなってしまう恐れがあるのです。
人を雇うとなれば、その分お金もかかりますから、野菜作付を新しく始める場合は、費用対効果を予測しながら慎重に進める必要があります。
普通作への転向は人手を増やさず雑収入増が狙える
それとは対照的に、万人にオススメできるのが普通作です。所得率は24%とほどほどですが、高い雑収入を得ることができます。転作作物の作付けによって、政府の「経営所得安定対策」で一連の補助金を受け取ることができるからです。
また、普通作を稲作のみと比べてみても、専従者の人数や雇人の延べ日数にほとんど差がありません。つまり、稲作のみの経営スタイルから普通作へ転向する場合、野菜作付を始めるより遥かに少ない人的コストで済む、ということです。
※雇人の延べ日数:雇人1人で年間すべての仕事をしたと仮定した場合の雇用日数
前編のまとめ
稲作のみから転向する場合、データからは「普通作」が良い、つまり、米に次ぐ第二作目は、「麦」か「大豆」が良い、という結果が見えました。
とはいえ、主食用米のみで十分に利益を出している農家もいますので、全ての稲作農家が転作した方が良い、とは限りません。その年の作況や地域によっても最適な手段は異なるかもしれませんので、自分の経営にマッチするかどうか見極めた上で、ぜひこのデータを参考にしてください。
それでは、転作作物としての「麦」と「大豆」はどちらが有利なのでしょうか?