農業利益創造研究所

農業経営

新規就農のメインストリーム 親元就農の状況を確認する

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

農業人口の減少がささやかれる中、後継者確保のための試みが各地で行われています。近年は、国の「農業次世代人材投資資金」など資金面での支援も厚く、非農家家庭からの就農者などもよく目にするようになりました。

しかし新規就農者の“メインストリーム”はやはり親元就農でしょう。農地や設備、地域の人間関係などをそのまま引き継ぐことができ、技術やノウハウなどもじっくりと吸収することができます。この親元就農者は、経営移譲されるまで事業主である親の元で専従者として働くのが一般的です。したがって「子の専従者」は、後継者の大宗を占める親元就農“予備軍”といえるでしょう。

では実際、この親元就農予備軍はどのくらいいるのでしょうか。行政からも様々なデータは出ているかとは思いますが、今回は2022年の農業簿記システムのデータから見る親元就農の状況を見てみたいと思います。

親元就農予備軍がいる経営体は12.2%

まずこの分析で扱う親元就農予備軍は「次世代の専従者」と定義します。次世代とは、“子”のほか、“孫”や“甥”を含めることにします。青色申告書の属性表記では“長男”“娘”“婿”といった表記もありますが、これらも“子”であるので、親元就農の予備軍として扱います。

ではまず、経営品目別の状況です。

青色申告者全体でみると親元就農予備軍がいる経営体数は1,416件で、全体の12.2%でした。思ったより低いというのが個人的な感想です。

さらに意外なのは、酪農や肉用牛など畜産経営の親元就農予備軍の割合が多いことです。特に酪農などは近年厳しい状況が続いているので、22.0%との高い割合には少々驚かされました。ただ畜産は動物を扱うので、耕種農業よりも愛着が強くなるともいわれます。畜産農家がしみじみと「牛はかわいい」と言っているのをよく聞きますが、そんな思いが家業を継ぐ気持ちを後押ししているのかもしれません。ここら辺はやってみないとわからない魅力なのでしょう。

青色全体普通作野菜果樹酪農肉用牛花き
全体経営体数11,5613,1244,4521,953277286601
事業主年齢56.458.854.256.854.956.758.1
次世代の専従者あり1,416349555227613872
割合12.2%11.2%12.5%11.6%22.0%13.3%12.0%

次いで地域ごとの状況です。

北海道や関東・東山の親元就農予備軍の割合が高く、近畿地方や中国地方の割合が低くなりました。これはその地域で、“この先農業でどれだけ食っていけるか?”についての農家の子弟たちの思いが表れているような気もします。

北海道東北関東
東山
北陸東海近畿中国四国九州
沖縄
全体数1,8562,0961,9878008564481,0129351,263
事業主年齢53.657.158.459.556.957.856.554.954.2
次世代の専従者あり32321933168107327497121
割合17.4%10.4%16.7%8.5%12.5%7.1%7.3%10.4%9.6%

親元就農予備軍がいる経営体は規模が約2倍

後継者がいるかどうかは、親の経営状況に左右されると一部ではいわれています。つまり経営が良いところでは、後継者ができやすいということです。

とはいえ、約2年前のコラムの「農業王のヒアリング結果から、優良経営体の実態が明らかに!」の中では、優良経営体でも後継者がいると答えたのは34.6%の農家でした。

上記した「次世代の専従者」の割合と比較すると高いようにも思えますが、このヒアリングは104名に絞られた優良農家に行ったものなので、この34.6%という割合は思ったより高くないというのがこの時の印象です。少なくともこの対象からなら、半分以上は後継者がいると思っていました。

確かに、仕事を選ぶ基準として収入は大きいですが、やはりやり甲斐や働きやすさなども大きな検討要素となるのでしょう。若い人ならこの傾向はさらに強いのだと思われます。いずれにしてもこの結果から、農業の後継者の有無は必ずしも親の経営の良し悪しだけで決まるものではないのかなとも思いました。

今回はあらためて、この漠然とした仮説を、対象を広げて異なる角度から確認してみたいと思います。

以下は青色申告者全体の次世代の専従者“あり”と“なし”の経営概要です。ただし、“なし”の中には30~40歳代などの若手・中堅の農家が含まれているので、それらを除いた集計も必要となります。そのために“あり”の事業主平均年齢に近くなるように、“なし”の中の若年層を除いた集計もしてみました。これが“なし2”です(以下同様)。

青色申告全体
次世代の専従者ありなしなし2
経営体数1,41610,1455,485
事業主平均年齢64.855.364.9
収入金額合計36,81120,78617,746
 うち販売金額29,32116,61314,127
世帯農業所得9,4545,0034,172
世帯農業所得率25.7%24.1%23.5%

※金額の単位は千円。

さてこのデータによると、“あり”は“なし”や“なし2”に比べ経営規模(収入金額合計)と所得率が共に高くなっています。つまり全体的には、次世代の専従者(≒後継者)がいる経営体のほうが経営状況は良いということで、ある意味通説どおりの結果です。

しかし経営規模でこれほど大きな差がつくというのは少々意外でした。“あり”は“なし2”からすると倍以上の規模です。ですが少し考えてみれば、これは納得がいきます。規模拡大には概ね資金が必要ですが、後継者がいなければ、60歳を過ぎてそれほど大きな借り入れはしたくないものですし、そもそも規模拡大をする必要もなかったりします。

後継者がいるからこそ、思い切った投資ができるわけですし、その必要性もあるわけです。こう考えると、「規模が大きいから後継者がいる」のではなく「後継者がいるから規模を大きくした」というのが正しい理解なのかもしれません。

そしてやる気のある若い働き手がいれば、経営効率も高まることも容易に想像がつきます。それが所得率の高さにもつながっているのかもしれません。

この青色申告全体に見られた傾向は、経営品目ごとに見てもおおむね同じです。例えば以下は普通作と野菜経営の概況ですが、“あり”は“なし”より、経営規模が大きく所得率は高くなっています。経営規模が、“あり”は“なし2”の約2倍という点も同様です。

このように経営品目にかかわらず、次世代の専従者(≒後継者)がいる農家は、いない農家よりも経営規模は約2倍大きく、所得率も若干高い傾向があるといえそうです。ただし、経営が良いから後継者がいるのか、後継者がいるから経営が良いのかの因果関係は、ここからではわかりません(相関と因果は違う)。

普通作経営
次世代の専従者ありなしなし2
経営体数3492,7751,951
事業主平均年齢64.458.164.3
収入金額合計36,20919,475 16,475
 うち販売金額21,84112,01110,124
世帯農業所得9,5674,7183,867
世帯農業所得率26.4%24.2%23.5%
野菜経営
次世代の専従者ありなしなし2
経営体数5553,8971,770
事業主平均年齢64.052.863.9
収入金額合計35,91721,28918,618
 うち販売金額30,40518,20016,057
世帯農業所得10,2225,5294,863
世帯農業所得率28.5%26.0%26.1%

※金額の単位は千円。

尚、ひとつだけこれらの傾向と異なる品目経営がありました。酪農経営です。酪農は経営規模の傾向に関しては、他の経営体と同じですが、所得率は“あり”より“なし2”のほうが高くなっています。たった1.3ポイントの違いですが、酪農経営はそもそも所得率が高くないので(酪農全体平均:7.4%)、この差は小さくないとも思われます。さて、この差の理由はなんでしょうか。

まず考えられるとすると、酪農経営は搾乳牛が固定費であることです。売上を上げるために頭数を増やすと、固定費である減価償却費も増加するので、スケールメリットが働きにくいからです。だから規模の大きい“あり”の経営体も、所得率は上がらない(逆に下がる)ということかもしれません。

もう一つの理由を次世代専従者にからめて解釈すると、上述したおとり酪農経営は次世代専従者の割合が多いのですが、その分技術が未熟な人も多くなり様々な経営上のロスが生じている、などと考えられるかもしれません。あくまでも仮説ですが。

酪農経営
次世代の専従者ありなしなし2
経営体数61216106
事業主平均年齢64.355.164.6
収入金額合計82,15767,72046,511
 うち販売金額69,78957,66539,747
世帯農業所得6,2234,9664,123
世帯農業所得率7.6%7.3%8.9%

※金額の単位は千円。

収入や所得だけが就農条件ではない?

以上、親元就農予備軍である「次世代の専従者」がいる経営体はいない経営体に比べると、経営品目にかかわらず経営規模が約2倍あること、酪農以外は若干所得率が高いことが確認されました。

しかしこのことは、規模が大きくて所得率を高めれば、必ずしも後継者ができるということではないと思われます。昔、1億円ぐらいの収益大規模があり、毎年高い所得を上げていながら、3人いる子供は誰も農業を継がないという農家に会ったことがあります。その農家さんは、毎日朝早くから働いて、年間ほとんど休みもないとのことでした。

一般的に収入や所得は就業するうえで大きな条件になりますが、それ以外にも考慮すべき条件はあるもので、農業でもそれは同じということなのでしょう。

つまり経営規模の大きさは、後継者の有無と一定の相関関係があるかもしれませんが、因果関係がどの程度あるかはここからではわからないということです。経営効率(所得率)の高さに関しては因果関係どころか、相関関係も若干認められる程度ではないでしょうか。

女性の後継者は?

女性の次世代専従者(属性表記では“娘”“〇女”)がいる割合は、青色申告者全体で136件、1.2%でした。男女合計の“次世代専従者あり”の経営体は12.2%ですから、女性後継者の割合はほぼ1割となります。また経営類型として最も多かったのは、ここでも酪農経営で3.6%です。

農業は力仕事が多いから女性が少ないのは当然と思う方もいるかもしれませんが、実際多くの農業の現場は、昔から“母”や“妻”や“嫁”が欠かせない“戦力”となっています。そのうえ近年、農業にもIT化やDXなどの流れがあるわけですから、ますます体力の有無だけが担い手の条件ではなくなってくるでしょう。

そう考えると、現時点で女性の次世代専従者が1.2%というのはまだまだ少ないともいえ、これは大きな課題といえるのではないでしょうか。

逆に言えば、ここら辺も実は日本農業の伸びしろなのかもしれません。

関連リンク

農業利益研究所「農業王のヒアリング結果から、優良経営体の実態が明らかに!

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、普通作経営や野菜作経営では、次世代の専従者(≒後継者)がいる農家は、いない農家よりも経営規模や農家所得が約2倍大きい傾向があることが明らかになりました。こうした経営では、今の経営者と次世代の経営者の2世帯分の所得を得る必要があるともいえるので、ある意味では妥当な結果かもしれません。

中小零細経営や家業の後継者問題は、あらゆる業種で古くて新しい経営課題です。世襲制が多かった遥か大昔と異なり、現代社会では後継者は職業選択の自由を謳歌できる環境にあります。そうした時代に、後継者となることを選択する背景はいくつか思いつきます。例えば、子供の頃から家業を継ぐことを決めていた、親の高齢化・病気など家庭の事情で家業を継いだ、他の職業を経験してみて家業の価値や将来性を再発見し継承を決心した、会社の退職などを機に兼ねてから気になっていた家業を継いだなどなど、人の数だけ理由や背景がありそうです。

職業選択の判断基準は労働環境や働き甲斐も含めて様々ですが、希望する暮らしに見合う所得が得られることは、重要な要素になりそうです。今回の分析は、そのことを裏付ける結果になっているように思えます。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所