農業利益創造研究所

農業経営

「2023年農業経営動向」3年間の経営ベクトルを検証する(1)

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2023年の経営データが集計されたので、さっそく経営概要を見てみることにします。まず、対象経営体ですが以下の通り11,655件となりました。これは全国の農業簿記の個人ユーザーの中から、決算データの精度が高いとは判断された経営体を抽出したものです。普通作経営と花き経営での件数の減少が目立ちますが、野菜経営などは増加しています。

経営体数2023年2022年増減
全国11,65511,56194
普通作(稲+麦+大豆 等)3,0693,124-55
野菜4,5934,452141
果樹1,9471,953-6
酪農276277-1
肉用牛32428638
その他畜産(鶏、豚、その他)11710512
花き556601-45
工芸作物3183171
その他4554469

では、2023年の青色申告者全体の経営概要の変化をベクトルで見てみます。2023年の収入金額合計は23,759千円、世帯農業所得率は23.8%となりました。2022年と比較すると、所得率は若干低下したものの収益が1,010千円増加したことで、世帯農業所得額は前年より116千円増加して5,664千円となりました。2023年は全体的に経営状態が若干上向きになったということです。

収益の増加は、野菜販売高と雑収入の増加が大きな要因として挙げられます。一方費用では肥料費が大きく増加しました。

作物類型別の経営ベクトル

次は作物類型別の経営ベクトルです。

所得率は酪農経営のみが増加し、収入金額合計は肉牛経営以外が増加したという結果です。全般的に収益は増えたものの、所得率は低下したという痛み分けのような結果です。果樹経営は3年間で収益規模、所得率共にほとんど動きがありません。非常に安定した経営状態と言えます。

酪農経営は、前年より酪農の販売高(生乳売上)が3,215千円も増加したことが収益増加の要因です。これは、近年の飼料価格の高騰を受け、2022年の後半から2023年にかけて乳価を大幅に引き上げたことが影響していると思われます。値上げは、消費の減少を招くといわれていましたが、少なくとも2023年の時点では農家の収入や所得という点ではプラスだったと言えそうです。結果的に世帯所得金額は酪農経営で1,697千円増加し、経営的には一息付けたというところでしょうか。

逆に肉用牛経営(繁殖・肥育)は、世帯農業所得金額が1,737千円落ち込んだので、畜産経営間で大きく明暗が分かれた結果となりました。これは肉用牛の販売高が前年より5,907千円と非常に大きく減少したことが理由です。飼料費も1,726千円減少してはいますが、販売高の減少には全く追い付いつかず、また素畜費も1,549千円減少しているものの、これは繁殖経営の販売高低下の要因とも言え、必ずしもプラスに要因とは言えません。このようなことから、所得を2年連続で大きく下げることになってしまいまた。

地域別の経営ベクトル

次は地域別の経営ベクトルです。

全ての地域で、右(収入金額増加)か上(所得率増加)への変化が確認されますので、多くの地域で2022年より経営が改善されたと思われます。但し、九州・沖縄地域は、前年より世帯農業所得金額が316千円低下しました。収入金額合計は384千円ほど伸びているものの、飼料費が542千円増加するなどのコスト増があり所得率が1.8ポイントも低下したことが所得減少の原因です。つまり畜産経営のコスト増が九州・沖縄地域全体に大きく影響を及ぼしたということです。

北海道は、収入金額合計が3,046千円も増加したものの、所得率が2.3ポイント減少したため世帯農業所得は224千円減少しました。収入は雑収入(補助金・交付金)2,357千円の増加が大きく、費用は肥料費の1,369千円の増加が大きく影響しています。北海道は、九州・沖縄地域と違い、畜産ではなく畑作経営の影響が全体に及んでいると思われます。

右上に大きく動いた関東・甲信地域は、世帯農業所得が541千円増加しました。これは普通作や野菜の販売高が伸びたことと、動力光熱費が減少したことが大きな要因です。

また、東海地域も世帯農業所得を622千円伸ばしました。普通作と野菜の販売高が伸びたことは関東・東山地域と同様ですが、その他畜産(豚・鶏・その他牛等)や雑収入が大きく伸びています。また費用は、飼料費が232千円、素畜費が157千円減少しており、主に畜産関連の費用の減少が目立ちます。

以上のように、全般的に2022年からやや改善傾向が見られた2023年ですが、経営作物や地域ごとに見ると、状況は異なるようです。次回は、品目類型別の地域動向を見ていきます。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、2021年以降、ほとんどの作目で収入金額が増加してる一方で、農業所得率が低下している傾向が明らかになりました。地域別にみても、ほとんどの地域で農業所得率が低下しており、こうした傾向は、農業全体の傾向であるといえます。

近年の世界情勢の緊張や円安に伴う肥料、農薬、飼料、ガソリン、軽油、電気等の農業資材の価格高騰により、農業経営の経費が上昇していることが、農業所得率低下の背景にあります。こうした経営環境変化のリスクに対処する方法の一つは、投入資材の見直しや適正化ですが、それにも限界があります。

もう一つの方法は、地域内や経営内にある資源の再発見と有効活用です。例えば、自然エネルギーによる経営内発電、畜産経営と耕種経営が連携した肥料や飼料の地域内自給などです。SDGsやサーキュラーエコノミーの観点からも、各種資源の地域内・経営内循環・活用について考え直す時期になっているのかもしれません。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所