農業利益創造研究所

農業経営

利益が出た時こそ考えよう、経営を強くする取組みと将来投資

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2024年度の農業簿記ユーザーにおける世帯農業所得の全国平均は679万円となり、2023年度の565万円から114万円増加しました。これは、資材価格の高騰という影響はあったものの、米価の上昇や、収穫量が増えた作物があったことなどにより、結果として所得が増加したためです。

農業は天候や価格の影響を受けやすい産業です。収入が減少した時は、セーフティネットとして収入保険制度があります。

逆に、収入が増えて所得が多かった年は、「良かった」と喜ぶだけでなく、強い経営を実現するために、①将来を見据えた投資、②安定した資金繰りのための節税対策、を行うことが重要になります。それでは、具体的にどのような取り組みが考えられるのか、見ていきましょう。

将来の成長や安定のための投資を行いましょう

農業所得が増え、資金面でもある程度の余裕が生まれたときは、将来に向けた改革や投資を進める絶好のチャンスです。
以下のような取り組みを検討してみましょう。

①収入を増やす

 ・規模を拡大する
 ・新規作目を導入する
 ・一部のほ場で栽培方法を変えてみる(稲作であれば直播にするなど)

②コストを下げる

 ・スマート農業を導入する(ドローンなど)
 ・高効率の大型機械を導入する
 ・壊れそうな設備を入れ替える

③人への投資

 ・利益が多いときはボーナス増でモチベーションアップ
 ・免許取得の支援や外部研修費用の支援
 ・福利厚生の充実

④経営改革

 ・経理・事務処理のDX化(パソコン購入・ソフトウエア導入)
 ・ブランド、マーケティング強化(ホームページの作成・改変)
 ・借入金の繰上返済(利率の高いものから)
 ・リスク回避(盗難防止の監視カメラ、自然災害の防止対策)

「経営安定+節税」の取組み

経営の安定につながり、かつ節税効果も期待できる制度を紹介します。

①中小企業倒産防止共済(通称:経営セーフティ共済)

 これは、取引先企業の倒産によって中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための国の共済制度です。
 支払った掛金は、法人の場合は損金、個人事業主の場合は必要経費に算入でき、高い節税効果があります。

②中小企業退職金共済(中退共)制度

 自社だけで退職金制度を運用することが難しい中小企業が、国の援助を受けながら、従業員の退職金を計画的に準備できる共済制度です。
 事業主が毎月掛金を納め、従業員が退職した際には、中退共(独立行政法人勤労者退職金共済機構)から退職金が直接支払われます。
 掛金は全額経費算入できるほか、国からの掛金助成制度もあり、事務負担が少ない点も特徴です。

③中小企業投資促進税制

 新たに農業機械(トラクター、コンバインなどの1台160万円以上の機械)を購入した場合、以下のいずれかを選択することで、その年に節税効果を得ることができます。
  〇特別償却:取得価格の30%を追加で減価償却(特別償却)可能。
  〇税額控除:取得価格の7%を直接税額控除可能。(減価償却は通常通り実施)
 ただし、利益が出たからといって12月にコンバインを購入しても、その年に実際に業務で使用していなければ、適用対象とはなりませんので注意が必要です。

経営基盤強化準備金の活用

農業経営基盤強化準備金は、認定農業者が経営所得安定対策などの交付金を将来の基盤強化(農地、建物、機械の取得)の資金として積み立てた場合に、税制上の優遇措置を受けられる制度です。交付金は通常、雑収入として計上されるため、そのままでは農業所得が増え、課税対象となります。

しかし、この制度を活用して積み立てることで経費扱いとなり、その年の課税を繰り延べることができます。さらに、積み立てたお金を取り崩す(所得が増える)際に、購入した固定資産を圧縮記帳として処理(経費となる)することで節税効果が得られます。

ただし、圧縮記帳によって固定資産の取得価額が減るため、翌年以降の減価償却費は少なくなり、長期的に見れば税額が減るわけではありません。あくまで「納税を先送りでき、資金繰りを有利にする制度」である点を理解しておくことが重要です。

ソリマチの農業簿記データを見てみると、稲作経営で収入金額が5,000万~7,000万円規模の大規模経営では、交付金の平均額は約1,000万円、経営基盤強化準備金の繰入(積立)額は300万円です。

積み立てを行わなければ、交付金1,000万円はそのまま所得となり、税金が課されます。
一方、積み立てを行えば、その年は1,000万円に対する課税を回避でき、資金を内部留保することができます。

「今年は収穫量が増え、所得が多くなりそうだ」という年には、この経営基盤強化準備金の繰入を積極的に検討しましょう。
(詳しくは農林水産省のホームページをご参照ください)

まとめ

今年儲かったからといって、来年も同じように利益が出るとは限りません。「儲かったから使う」ではなく「戦略に必要だから使う」ということや、「無理な拡大よりも“体質強化”」を重視するという考え方が重要です。
儲かった時こそ、経営者としての「経営力」が真に試されます。

関連リンク

農林水産省「農業経営基盤強化準備金

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。