
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
農作物は気候により影響を受けるので、販売時期が偏るのは当然です。技術や設備が進化した現在でも、工業製品のように通年で生産できる作物は非常に限られています。そうはいっても売上が上がればお金も入るので、できれば毎月売上が欲しいと思うのが経営者の心情でしょう。では実際農家は、年間何か月ぐらいの売上があるのでしょうか。また、売上月数によって経営状況の違いなどは生じるのでしょうか。
今回は野菜経営や果樹経営が、売上の月数の違いでどう経営が違ってくるかを見てみます。
販売月5ヵ月が最も所得が高いが・・・
以下の「野菜経営 販売月数別経営概要」は、全国の野菜経営の販売月数別の収益や所得を示したグラフです。販売月数とは、販売金額の経理計上が年間何ヵ月あるかを数えたものです。したがって、実際に出荷した月数とは精算や経理のタイミングで微妙に異なります。収入金額合計、世帯農業所得、所得率はすべて中央値になります。またその下の表は、販売月数ごとの経営件数を表しています。
さてこれを見ると、野菜経営体で世帯農業所得が最も多くなるのは、販売月数5ヵ月で7,242千円となります。これは収入金額合計が27,212千円と際立って高いことが理由です。しかし単純に考えれば、所得は別にしても収入金額合計は右肩上がり、つまり販売月数が多くなるほど高くなると思われたので、この結果は意外に思えます。
収入金額が25,000千円を超えるのは、個人経営では大きな経営規模と言えます。経営品目を見ると、317件のうちジャガイモ経営が65件、トマト経営が60件、タマネギ経営が53件となっています。トマトは別としてジャガイモとタマネギのほとんどは北海道の経営体です。つまり販売月数5ヵ月の経営体が最も所得が高いのは、北海道の畑作経営のデータが強く影響しているためと言えます。
このように、全国のデータでは北海道の大規模野菜経営の影響が強く出てしまうため、次は北海道の影響を除いたデータを確認したいと思います。
| 件数(全国) | |
|---|---|
| 1ヵ月 | 108 |
| 2ヵ月 | 53 |
| 3ヵ月 | 86 |
| 4ヵ月 | 152 |
| 5ヵ月 | 317 |
| 6ヵ月 | 467 |
| 7ヵ月 | 589 |
| 8ヵ月 | 680 |
| 9ヵ月 | 618 |
| 10ヵ月 | 650 |
| 11ヵ月 | 617 |
| 12ヵ月 | 1573 |
通年販売だからといって儲かるとは限らない
以下の「野菜経営 販売月数別経営概要(都府県)」は、北海道を除いた都府県だけのデータです。こうなると確かに4ヵ月と5ヵ月の収入金額合計の大きな山はなくなり、月数が増えるごとに右肩上がりになります。ただしそれでも、12ヵ月の収入金額合計が最も大きくならないのは興味深いところです。
それと同様に面白い点は、所得率(世帯農業所得率)の動きです。5ヵ月では30.7%だったものが12ヵ月になると24.7%まで下がります。つまり通年販売(12ヵ月)に近づくと、それなりに収益は増えるものの、効率は確実に落ちていくということです。そして世帯農業所得は9ヵ月が4,894千円と頭一つ高くなりましたが、収益規模は9ヵ月でほぼ上げ止まったままなので、7ヵ月から11ヵ月までは、所得額に大きな違いは見られません。
一方でその下の「野菜経営 販売月数別品目構成(都府県)」のグラフを見てみます。これは、販売月数ごとに、品目数の平均値と、主幹比率(第一品目販売高÷販売高)の中央値を示したものです。これによると、主幹比率は7ヵ月を頂点に低下していきます。そして品目数は販売月7ヵ月以降から増加しており、販売月数の増加と相関関係にあることがわかります。
以上二つのグラフから見えることは、品目数を増やして販売月数を増やしても、目立った所得増加効果は見られないということです。ここでは、販売月数9ヵ月、品目数2.5品目が、所得金額が最も高くなりました。つまり品目数や販売月数を一定以上増やしても収益は伸び悩み、逆に品目数の増加から経営の複雑さが増して、効率を落とすということなのでしょう。ここでは9ヵ月がその均衡点なのだと考えられます。
なお「野菜経営 販売月数別経営概要(都府県)」によると、販売月数が1ヵ月から4ヵ月も、経営効率も低くなります。やはりこのぐらいの出荷月数だと、固定費の利用効率なども落ちるので所得率は上がらないのかもしれません。なお、2ヵ月は所得率が非常に大きくなっていますが、経営件数が最も少ないので留意が必要です。
以上、販売月や品目数が少なければ、所得は高くなりにくいものですが、逆にただ増やすだけでも所得は伸びないということです。経営は何においても、この微妙なサジ加減が必要ということでしょう。
| 件数(都府県) | |
|---|---|
| 1ヵ月 | 98 |
| 2ヵ月 | 49 |
| 3ヵ月 | 63 |
| 4ヵ月 | 76 |
| 5ヵ月 | 150 |
| 6ヵ月 | 287 |
| 7ヵ月 | 412 |
| 8ヵ月 | 524 |
| 9ヵ月 | 531 |
| 10ヵ月 | 594 |
| 11ヵ月 | 573 |
| 12ヵ月 | 1502 |
果樹は野菜よりもわかりやすい結果
果樹経営のデータも取ったので、簡単に確認します。
「果樹経営 販売月数別経営概要」によると、収入金額合計は、販売月数12ヵ月が最大で14,822千円となり、次いで10ヵ月の14,723千円となります。対して所得率は3ヵ月が最も高くなりますが、そこから販売月数が増えるにしたがって低下傾向にあります。以上から、所得金額は5ヵ月の5,127千円が最も高くなり、次いで6ヵ月の5,046千円となります。
次に「果樹経営 販売月数別品目構成」を見ると、野菜経営より明確に販売月数と品目数の比例関係がわかります。果樹経営は果樹作物内で複合化する傾向が強く、また季節の影響は野菜より受けるので、品目数と販売月数は強く相関するのでしょう。12ヵ月販売は平均3.4品目となり、最も所得が高い販売月数5ヵ月は1.7品目、6ヵ月は2.0品目となりました。
これらを総合すると、野菜経営と同じことが言えます。つまり果樹の品目数を増やして販売月を増やしても、経営効率が下がるのでそれほど儲からないということです。このデータでみると果樹経営は2品目程度に絞って、5~6ヵ月程度の販売期間が最も所得金額が高くなっています。一つの参考になればと思います。
| 件数(全国) | |
|---|---|
| 1ヵ月 | 46 |
| 2ヵ月 | 80 |
| 3ヵ月 | 189 |
| 4ヵ月 | 290 |
| 5ヵ月 | 355 |
| 6ヵ月 | 309 |
| 7ヵ月 | 325 |
| 8ヵ月 | 261 |
| 9ヵ月 | 264 |
| 10ヵ月 | 213 |
| 11ヵ月 | 148 |
| 12ヵ月 | 339 |
以上、今回はあえて品目を絞らず、野菜・果樹という大枠で分析をしてみました。ケースによってはデータを細かく見るよりも、大きくとらえた方が色々見えてくるものもあります。
いずれにしても農業は、品目の特性に応じた作付け計画がやはり重要で、むやみに品目を広げて収入機会を増やしても、リスクのほうが大きくなるのでしょう。
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、野菜経営と果樹経営を対象に、販売月数別の収入、農業所得、農業所得率などの面から経営実態を明らかにしました。その結果、両作目とも、販売月数を増やしても、品目数を増やしても、所得増加効果はあまりみられない傾向がみられました。
農産物の場合には、長期間の生産や販売を目指すと、設備投資が増加する傾向があります。例えば、イチゴやミカンを冬にも収穫するためには、ビニールハウスや温室に加えて加温施設も必要になります。また、サツマイモやリンゴの様に、収穫後に長期間保存するためには、低温で湿度を一定に保つ保冷貯蔵施設が必要になります。
旬に生産して、収穫直後に出荷すれば、こうした設備投資を抑えることができ、農業所得の向上が期待できます。その一方で、付加価値をつけにくく、高い収益を期待し難い面もあります。コストを抑えて付加価値を如何に向上するのか、経営者の力量や手腕の見せどころです。
