農業利益創造研究所

農業経営

2023~2025年の農業の推移を経営ベクトルで分析する

個人情報を除いた2025年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家20,292人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2025年の農業簿記の個人データの集計ができましたので、早速その概要を経営ベクトルという形で報告したいと思います。

経営件数

集計対象は、例年通りソリマチ㈱の農業簿記とWeb農業簿記(JA記帳代行含む)の個人利用者のうち、収入金額合計が1,000千円以上で、かつ経理内容に信頼性がおける等の条件を満たしたデータです。

まず経営体の件数ですが、2025年度は2024年より4,511件と大きく増加し20,292件となりました。最も大きく増加したのは青森県の1,455件で、次いで茨城県の1,292件となります。経営作物別には、普通作の1,831件の増加が最も多く、次いで1,558件の野菜経営となりました。

分析データが増えることは、正確な分析をする上で欠かせない条件ですので、これは大変喜ばしい傾向です。今後もこの調子で伸びていくといいですね。

2023年2024年2025年前年差
経営体数11,72915,78120,2924,511
増加数
青森県1,455
茨城県1,292
岡山県395
愛媛県211
増加数
普通作1,831
野菜1,558
果樹858

全体ベクトル

では経営の内容を確認していきます。

以下の図は、青色申告者全体(2025年は20,292件)の経営の動きを示したものです。横軸は収入金額合計額で経営規模を表し、縦軸は世帯農業所得率で、経営効率を表します。値は昨年までは平均値をとっていましたが、今年から中央値としました。これは一部の大規模経営による影響を受けにくく、一般的な経営実態をより適切に表せるからです。以下、すべての数値は、限定がない限り中央値となります。

さてこの通り、2025年は右上に大きく伸びました。つまり収入規模も利益効率も大きく上がったということです。したがって世帯農業所得も大きく上がり2025年の中央値は5,651千円となりました。2024年が4,681千円なので970千円の増加です。なお、2023年は3,948千円なので、2年間で1,703千円の世帯農業所得が増加したことになります。

以上のことから農業経営全体としては、2025年は極めて良好な状況にあると言えます。

経営類型別ベクトル

では、経営類型別に見てみます。以下は第一主幹品目で類別した経営体のベクトルです。耕種経営と畜産経営では値に大きな隔たりがあるので、畜産経営を除いて耕種経営を拡大したベクトル図も下に載せます。

これによると普通作経営が大きく右上に伸びているのがわかります。この結果、普通作経営の世帯農業所得の中央値は10,184千円となり、前年の6,142千円を4,042千円も上回りました。「令和の米騒動」は、消費者にとっては大きな痛手でしたが、稲作農家には大きなプラスになったことがわかります。普通作経営は経営件数も多いため、上記した青色申告者全体の伸びは、この普通作経営の影響を受けてのことだと考えられます。

普通作ほどではありませんが、工芸作物経営も2025年に右上に大きく伸びました。工芸作物は、そのほとんどが、お茶経営とタバコ経営です。このうち、お茶経営の世帯農業所得が2025年に5,578千円も増加したことが、このベクトルの動きの原因です。

酪農経営と肉牛経営も右上に動きました。酪農経営は僅かな動きのように見えますが、経営規模が大きいので、世帯農業所得は1,156千円増加し8,265千円となっています。

肉牛経営の2025年の世帯農業所得は2,861千円となり、前年よりも1,197千円増加しました。しかし、それでもまだ高いとは言えず、厳しい経営状況から脱したとは言えません。

2025年に唯一左下に動いたのが、花き経営です。世帯農業所得は3,095千円になり、2024年から697千円低下しています。花きは嗜好品の傾向が強いので、もしかしたら景気の影響を受けているのかもしれません。機会を見て詳細を確認できたらと思います。

茶タバコ
2025年経営件数310115
2025年世帯農業所得8,5803,669
2024年世帯農業所得3,0013,720
差5,578-50

金額の単位は千円。

地域別ベクトル

最後に地域別の経営ベクトルを見てみます。これも北海道の規模が、他の地域と大きくかけ離れているので、その下に都府県で拡大したベクトル図も載せます。

中国地域を除くすべての地域で右上に伸びています。稲作は全国で行われているので、米価高騰の影響がほとんどの地域で現れたと言えます。中でも稲作の割合が大きい北陸地域の伸びは大きく、世帯農業所得が3,806千円も増加して、7,466千円となりました。これを県ごとに見ると、新潟県の4,498千円の増加を先頭に、富山県4,075千円、石川県3,304千円と非常に大幅な伸びが確認されます。

これとは逆に稲作の依存度が比較的低い、四国地域や九州・沖縄地域は小さな増加に留まりました。

新潟県富山県石川県福井県
2025年経営件数620149142126
2025年世帯農業所得8,2647,7817,5633,411
2024年世帯農業所得3,7663,7064,2582,454
差4,4984,0753,304957

金額の単位は千円。

経営規模が唯一低下した中国地域ですが、各県の所得の変化は、以下の通りとなります。これによると最も件数の多い岡山県で前年度を下回りました。鳥取県などもほぼ前年水準です。

岡山県広島県鳥取県島根県山口県
2025年経営件数696266478268136
2025年世帯農業所得2,5532,7333,1792,8402,820
2024年世帯農業所得2,8992,5863,1472,4202,136
差-34614832421684

金額の単位は千円。

岡山県に何があったのでしょうか。以下は岡山県の主要経営品目類型ごとの所得の変化です。普通作、野菜、果樹の各品目類型で減少しています。中でも、最も件数が多い果樹経営で448千円も所得が減少しています。2025年は猛暑により、岡山県の桃やブドウに作柄不良があったようですが、その影響が表れているのかもしれません。また岡山県は冒頭に示した通り、2025年に件数が大きく増えました。増加件数は395件ですが、2024年が301件ですので実に2.3倍ほど増加したことになります。このように集計対象が大幅に変化したことで、前年比の結果が歪んだ可能性も否定できません。

普通作野菜果樹
2025年経営件数143114377
2025年世帯農業所得2,6562,5082,616
2024年世帯農業所得2,6812,7833,064
差-25-275-448

金額の単位は千円。

以上、一部を除き2025年の農業経営は、米価高騰の恩恵を大きく受けた一年となりました。ただし、米価の高騰は今後長く続くものではないという見方もあり、あまり楽観できる状況でもありません。我々としては、今後米価がどう変化しても、経営が継続できるよう、これからも農業経営のための有益なデータや分析結果を示し続けていきたいと思います。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、農業簿記を利用している個人農家のデータを用いて、2023~2025年の農業経営の推移を明らかになりました。分析に用いる農家は毎年同じというわけではなく、対象農家が大きく変わると、分析結果もその影響を受けます。その一方で、分析対象農家数が増えれば、農家全体の傾向をより正確に把握できることも期待できます。

分析結果から、昨年米価高騰が稲作農家の財務状況に及ぼした影響の大きさを改めて確認できました。稲作経営は普通作経営に分類されますが、その世帯農業所得の中央値は1,000万円を越え前年の1.7倍になりました。

猛暑や干ばつの悪影響も懸念されましたが、お米の収量や品質も総じて良好となり、販売単価も近年にない高値水準となったため、10aあたり売上が30万円前後になった農家も珍しくありません。1ha規模でも300万円前後、3haで1,000万円前後の売上になる計算になります。

コロナ禍の時期には、米需要が激減して米販売価格は昨年の3割以下であったとの話も聞かれ、稲作農家にとっては、2020年代は、言葉通り激動の時代といえそうです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所)