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農業経営

農業所得額に影響する青色申告の経理で間違えやすいトップ5

2022年度分の確定申告の申告期間は、2023年2月16日(木)から3月15日(水)です。
当研究所では、農業所得向上のヒントを研究し皆さんに伝えておりますが、青色申告の経理のやり方により農業所得額が変わってきますので、正しい経理を行うことが大事です。

でも、確定申告は1年に1回の事ですし、とにかく難しいのでやり方を忘れてしまう人がとても多いです。

今回のコラムは、年間全国各地で500回もの農業簿記研修会をJAや普及センターと共同開催しているソリマチ株式会社にお聞きして、青色申告で間違えやすい経理のトップ5を紹介します。

1.減価償却は難しい

複式簿記で難しい経理として減価償却があります。肥料などはその年に使ってしまうので全額経費で落とせますが、複数年事業で使うもの(建物や機械など)は、その年に使った分として按分した金額が経費になります。

この減価償却で間違えやすいことを3つお伝えします。

■取得価額30万円以下なら減価償却せずに経費にして構いません。
 これは2024年3月31日までの特例です。申告書の「減価償却資の計算」の摘要欄に、「措法28の2」と記入して即時償却します。

■中古資産の耐用年数は法定耐用年数ではありません。
 事業の用に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数によるのが原則ですが、簡便法により「耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20% ※年数は年未満切捨て」として計算することができます。

■事業専用割合を正確に。
 例えば経営者が個人で所有している車をたまに事業で使用する場合は、その車の減価償却費の事業使用分%を経費にすることで、所得が減り節税となります。

■他にも
 減価償却費の金額が資産購入時の金額になっている、減価償却費の仕訳を2回重複して入れている、資産を処分したのに減価償却資産の中に残っている、ということも多く見受けられます。

2.事業主勘定を正しく使いましょう。

個人事業は、銀行口座が事業と生活と一緒になっている場合があり、事業と個人の区別がつかないケースがあります。

資産の部の「事業主貸」と、負債資本の部の「事業主借」の勘定科目を使って仕訳することにより、正しい売上や経費が計算されます。

<事業主貸の仕訳例>
生活費として事業用の預金から10万円を引き出した
【借方】事業主貸 10万円 / 【貸方】預金 10万円
※個人にお金を貸したと考える

<事業主借の仕訳例>
事業に使うノート代400円を個人の財布から支払った
【借方】事務消耗品費 400円 / 【貸方】事業主借 400円
※個人からお金を借りたと考える

まれに、現金・預金の残高と実際のお金が合っていない、マイナス残高になっているケースがありますので、事業主勘定をちゃんと確認しましょう。

次年度になったら事業主勘定の2つの科目の差額を計算し元入金科目に入れて調整し、事業主勘定の残高を0円にします。

3.消費税の軽減税率

農産物の消費税率は8%というのはみなさん知っていることと思いますが、週2回以上発行される新聞も軽減税率であることを知っていますか。

日本農業新聞のように毎日発行される新聞は8%、全国農業新聞のように週1回の新聞は10%です。このように軽減税率には大小様々なルールが存在します。

特に軽減税率でややこしいのは、直接販売した際の商品代金と送料の消費税です。

軽減税率8%の適用対象である3,500円の商品(たとえば農作物など)を送料込みで販売した場合、消費税が10%だった時は送料を意識せず3,500円+10%消費税と計算すれば良かったのですが、軽減税率になってからは、送料は10%、商品は8%と分ける必要があります。

 商品 3,000円 × 8% = 3,240円
 送料 500円 × 10% = 550円

つまり税込み金額は3,500円×110%=3850円ではなく、上記の合計3,790円 として計算しなければなりません。

4.経費にならない取引

経費になるのかならないのかも、経理における悩みの種の一つです。農業経営において以下の2つは経費にならないので注意しなければなりません。

・借入金の返済
銀行やJAからの借入金を返済した場合は、借入金が減少するだけで経費にはなりません。但し、借入金の利息は経費になります。

・租税公課
住民税、生命保険掛金、国民健康保険が含まれているケースがありますがこれは事業の経費ではありません。

・牛馬果樹等の育成費用
育成中の牛馬や果樹に投与した飼料や肥料代は、その金額を計算し飼料や肥料代から引いて育成費用として積み立てますので、経費となりません。成牛や成木になったら、減価償却して経費として落としていきます。

また、特殊な例として、「借りた農地の地代をお米で支払った」という仕訳は、 以下のようになります。
【借方】支払い地代 / 【貸方】売上

地代をお米で支払うと、取引上は経費ですがお金の支払いは無く、農産物売上ということになります。農産物売上には消費税がかかりますし、インボイス制度が始まると仕入税額控除のためにはインボイス発行も必要となります。

5.雑収入と間違えやすい取引

農産物売上以外の収入は、判断に迷うことがあります。以下は特に注意しましょう。

・農協からの出資配当金は配当所得であり、事業収入に入れてはいけません。
・小作料収入や、ほ場に立てられた送電線鉄塔の敷地料は不動産所得です。
・農業機械を売却した時の利益は譲渡所得です。
・農園カフェ、農泊などの事業は、農業の青色申告では無く一般用の申告です。
・公的な年金収入は事業収入ではありません。

経費取引を忘れずに仕訳することにより節税になりますし、正確な経理を行えば自分の経営の実態が見えてきますので、正しい経理を行いましょう。

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 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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