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北海道と都府県の大規模普通作経営の違いを探る!

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

普通作とは、人が主食として食用に用いる作物のことであり、例えば米や麦、大豆、そば、です。これらは大規模な農地で栽培することで効率が高まりますので、北海道での生産が有利です。

今回は、普通作経営を行っている北海道の農家と都府県の農家の、収入金額が5,000万円以上の大規模経営にどんな違いがあるのかを探ってみたいと思います。

北海道のお米

普通作と言えば、まず日本人の主食であるお米が思い浮かびます。農林水産省の作況調査によると、下記のグラフのようにお米のイメージが強い新潟県が収穫量第1位です。しかし、第2位の北海道は、いささか意外な結果ではないでしょうか。

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北海道は気温が低くて、最初はお米はうまく作れなかったようです。しかし、品種改良を重ね1988年に「きらら397」というお米がデビューし、北海道のお米のイメージが一新しました。

北海道の面積は83,424k㎡と広大で我が国の国土の約22%を占めており、オーストリア1国の面積に匹敵するそうです。また、一戸当たり経営耕地面積は33haもあり、都府県平均の約11倍の広さだそうです。この広さが稲作の上でも有利に働いているのだろうと推察されます。

北海道と都府県の経営を比べてみる

それでは、北海道と都府県の大規模普通作経営は何か違いがあるのでしょうか。農業簿記ユーザーの普通作農家の中で、収入金額5,000万円以上の大規模経営を抽出し、経営の特徴を調べてみました。

まず、収入を見てみると、収入金額はどちらも6,600万円前後ですが、収入の内訳が違っていました。北海道は普通作の作物の他に、野菜や工芸作物も多く作付けしていることがわかります。

北海道と都府県の収入金額5,000万円以上農家の平均
北海道
経営体数:130
都府県
経営体数:75

経営体数:55
収入金額65,26867,877-2,609
 うち普通作販売金額26,90634,035-7,129
 うち野菜販売金額6,7501,8784,873
 うち工芸作物販売金額2,7123102,402
 うち雑収入27,03628,783-1,746

※金額の単位は千円。

販売金額が一番多い作物の経営体数を調べると、北海道では以下のグラフのようになりました。ちなみに、都府県の販売金額一位の作物はすべての農家がお米ですから、ここに北海道の普通作経営の特徴が表れているとも考えられます。
(普通作なのにジャガイモがなぜ入っているのか?と思われる方もいると思いますが、売上金額がジャガイモ15、米が10、麦が10、の農家の場合は米と麦の金額が多いので普通作経営であると分類しています。)

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次に費用について調べると、北海道は種苗費と肥料費と荷造運賃手数料が都府県より高くなっています。北海道はお米以外の作物を作付けている関係で、種苗費や肥料費が多くなっていると思われます。そして、北海道は消費地から遠いので荷造運賃手数料が高いのはうなずけます。

北海道都府県
種苗費2,3931,530863
肥料費6,3175,533784
修繕費3,0434,492-1,449
荷造運賃手数料3,5141,6961,817
雇人費9384,192-3,254
専従者人数2.4人2.5人-0.1人

※金額の単位は千円。

注目すべきは、北海道は修繕費と雇人費が非常に低くなっているという点です。修繕費が低いということは、大型機械を丁寧に使い、メンテナンスを徹底しているのでしょう。

そして雇人費が低いのは、北海道では以下の4点の理由で効率的な普通作農業を行っている、ということにつながっているのではないかと思われます。

  1.大規模区画の農地のため、大型機械により効率よく作業が行える
  2.冷涼な気候のおかげで病害虫の発生が少なく、防除や管理にかかる時間が少ない
  3.トラクターのGPS自動走行システムなどを活用したスマート農業が盛んである
  4.コントラクターなどの作業受託組織を活用している

農林水産省の農業構造動態調査によると、2022年の北海道の農家の61.5%(全国平均は17%)がデータを活用した農業を行っているということからも、スマート農業の導入が高いと思われます。

また、北海道の農業の特徴として、「コントラクター」という農作業を請け負う組織・会社が多く存在しており、忙しいときに作業を委託できることです。

コントラクターは主に畜産の牧草に関わる作業を請け負うのが主ですが、耕種農業の作業も請け負うケースがあります。以上のことから、北海道は雇人費が都府県に比べ325万円も少ないというのが大きな特徴になっているのだと思います。

また最終的な世帯農業所得(農業所得+専従者給与)は、北海道が117万円高く、世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額)は27.4%と高い結果でした。

北海道都府県
世帯農業所得17,89016,7151,174
世帯農業所得率27.4%24.6%2.8%
建物・農機具資産 残高38,30037,764536
借入金 残高36,69014,82321,868

※金額の単位は千円。

他にも特徴的なのは、北海道は大型機械を使っているので、都府県より建物や農機具資産額が高いのではないかと思ったのですが、3,800万円の同額でした。そして、借入金は北海道が3,669万円と非常に高く、固定資産額の割には借入金が多い理由は何かあるのか疑問です。

まとめ

農家の高齢化に伴い農家数は減少していますが、廃業した農家の土地が担い手農家に集積されて、どんどん大規模経営が増加しています。日本の主食をまかなっていくのは、大規模経営の農家であることは間違いありません。

都府県の普通作農家は、広大な農地がある北海道の真似をすることはできないかもしれませんが、昔ながらの経営手法にこだわらず、スマート農業や作業委託などの方法を模索しても良いと思われます。

農業機械の自動化、衛星情報を活用した農業、ドローン、自動給排水装置など、人手をかけない効率的な農業は、普通作経営で実践されていくことでしょう。

関連リンク

農林水産省「作況調査(水稲等)
農林水産省「農業構造動態調査
国土交通省「北海道開発局
北海道「コントラクター実態調査について

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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