
個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2020年度の野菜農家の世帯農業所得(農業所得+専従者給与)ランキングについては「気になる!?野菜農家の所得が高い都道府県はどこ?」で既にお伝えしました。
それでは、世帯農業所得÷(販売金額+雑収入)で導き出される「平均世帯農業所得率」(以下、所得率と呼びます)についてはどうでしょうか?
ちなみに、所得率が高い場合、経費が少なく抑えられ、効率よく利益が上げられているということになります。逆に、所得率が低い場合、販売金額に比べて所得が少ない、つまり経費がかさんでしまっていることを意味します。つまり、所得率とは、経営の効率性の指標の一つ、と考えることができます。
この所得率についても、「露地」「施設園芸」に分けて、それぞれ見ていきたいと思います。
※なお、このランキングはあくまでも『農業簿記』のユーザーである農家の分析結果です。全国の農家全体のランキングとは異なっている可能性がありますので、ご了承ください。
野菜農家の世帯農業所得率ランキング 露地栽培編
順位 / 都道府県 | 世帯農業所得率 | 最多主幹作目 | |
---|---|---|---|
1位 | 山形県 | 44.2% | メロン |
2位 | 埼玉県 | 39.9% | さといも |
3位 | 徳島県 | 35.3% | さつまいも |
4位 | 千葉県 | 34.4% | にんじん |
5位 | 岡山県 | 33.8% | トマト |
まずは、露地栽培から発表いたします。稲作と同様に、世帯農業所得のランキングとはかなり違ったものになっています。
第一位は山形県です。山形県は露地栽培の所得ランキングでも第二位にランクインしていたので、所得率も所得額も高いということで、野菜で利益を出したかったら山形で!というのはびっくりで意外な結果です。高額なイメージが強いメロンですが、利益率が良いのではないか?という推論も成り立ちますね。
第二位は埼玉県で主要最多作目は「さといも」です。埼玉県は日本有数のさといもの産地です。こちらは所得のランキングでは第六位(世帯農業所得5,479,816円)につけていました。所得そのものも大切ですが、利益所得率としてはかなり高くなっています。
第三位は徳島県、第四位は千葉県、第五位は岡山県です。この三つの所得率はほとんど差がありませんが、いずれも平均よりは高い数字になっています。この地域は特に農業において利益が出ている地域と言えるでしょう。
野菜農家の世帯農業所得率ランキング 施設園芸編
順位 / 都道府県 | 世帯農業所得率 | 最多主幹作目 | |
---|---|---|---|
1位 | 広島県 | 37.4% | トマト |
2位 | 茨城県 | 34.4% | きゅうり |
3位 | 山形県 | 34.2% | トマト |
4位 | 滋賀県 | 33.6% | いちご |
5位 | 群馬県 | 33.1% | いちご |
次に施設園芸のランキングです。露地栽培とは全く違った結果となっています。最多主幹作目は「トマト」「きゅうり」「いちご」と、所得のランキングと同じになりました。
実はこれらの作目が特に所得率が高い、というわけではなく、施設園芸の最多主幹作目の大半が「トマト」「ミニトマト」「きゅうり」「いちご」で占められているのです。それ以外は、福岡県の「アスパラガス」、佐賀県の「ねぎ」、鹿児島県の「ピーマン」の三つのみです。これらの作目は日本全国で広く栽培が可能で、利益も出しやすいということでしょう。
第一位は広島県で、最多主幹作目は「トマト」です。トマトは利益が出やすい野菜と言われていますが、そのイメージを裏付ける結果となりました。
第一位の広島県と第四位の滋賀県は、これまでで初めてのランクインとなります。第二位から第五位までは所得率の数字に大きな違いがなく、地域としてもバラバラでした。
いかがだったでしょうか。農業利益創造研究所としては他のデータとも比較しつつ、今後も様々な分析を試みていく所存です。この記事をお読みの方も、独自に考察してみてはいかがでしょうか。
南石教授のコメント
今回の分析から、野菜農家の所得率は、施設園芸に比較し、露地栽培の方が、1位から5位の所得率が高い傾向にあります。また、所得率は、施設園芸に比較し、露地栽培の方が1位と5位の差が大きい結果となりました。1位と5位の差は施設園芸では3.3ポイントですが、露地栽培では10.4ポイントです。これらのことから、露地栽培の方が、作物、技術、立地条件によっては、所得率を上げやすい傾向が読み取れます。
施設園芸は露地栽培と比較して、天候の影響を受けにくく、栽培環境を制御し易く、収量も安定し、農作業も計画的に行えます。その一方で、施設や資材の経費が増加する傾向があります。どちらも一長一短で、悩ましいといも言えますが、農業が面白い一面ともいえます。