農業利益創造研究所

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中古農機具はSDGsにつながる? 中古農機具販売「農機具王」を紹介

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

当研究所の過去のコラムでも掲載したことがありますが、普通作経営における収入金額に対する経費率が一番大きいものは「減価償却費」であり、その数字は13.8%です。

減価償却費は固定費なので、作付面積拡大がそのコスト削減につながります。しかし、そもそも農業機械を安く購入できればより一層のコスト削減になりますので、価格が安い中古農機具を購入するという選択肢も有効です。

今回のコラムでは、普通作経営における中古農機具の活用について、インタビューも交えて考えてみたいと思います。

中古農機具を使っている農家はどれくらい?

普通作の個人事業農家3,179件の減価償却資産データを集計し、中古農機具(耐用年数が7年未満のトラクター、田植機、コンバイン)を購入している経営体数を調べてみました。

中古農機具を利用している普通作の経営体は14.8%でした。中古自動車の販売業者が多数存在している状況と比べると、中古農機具利用は意外と少ないということがわかります。農機具別に見るとトラクターが少し高いですが、田植機もコンバインもほぼ同じくらいの中古利用率です。

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次に収入金額規模別に、中古利用の経営体の比率をグラフにしました。経営規模が大きくなるほど中古利用経営体比率が徐々に増えていますが、3,000~5,000万円(稲作なら約20ha)から減少しています。

大規模経営は新品を購入し、故障のリスクを避けて、メンテナンスしながら長く使う、ということを意識している経営者が多いのかもしれません。

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中古農機具を販売する「農機具王」とは

今回はデータだけではなく実態を調べるため、農業における中古農機具の利用に詳しい方にお話を伺ってまいりました。

今回インタビューを行ったのは、中古農機具・農業機械の出張買取販売専門店「農機具王」を運営している株式会社リンク(滋賀県近江八幡市)のマーケティング部の十時(ととき)さんです。

不用品回収事業を行っていた創業者が、2008年に中古農機具買取販売の株式会社リンクを創業したのが「農機具王」の始まりで、現在はインターネットによる販売はもちろん、全国に35店舗の直営店を展開しています。

「弊社の特徴は、”農機具王”という覚えやすい名前のお店であること、全国に35店舗もの直営店を持っていて顔と顔を合わせて商売していること、そして、同業他社の中古買取業者では買取をお断りするような農機具でもほぼ必ず引き取っています」

どのような農家さんが中古農機具を購入しているのかお聞きしたところ、大規模専業農家や農業法人よりも、兼業農家や中小規模個人農家、そして新規就農した農家が多く、まさに高額な農機具にはちょっと手が届かない農家さんだそうです。これは、中古農機具を保有してる農業簿記ユーザーの分析と合致します。

後継者がいなくて農業をやめる高齢の農家さんが徐々に増えてきており、農機具を売りたい人と、安く買いたい人のバランスがとれているそうです。中古農機具買取販売事業は、まさに農機具リユースによる資源の循環と、日本農業の生産コストを下げることに貢献していると思います。

「弊社は、中古農機具買取販売で生産者さまのお役に立つだけでなく、例えば土壌や肥料の効率的な使い方などの営農指導を通じて経営をサポートするアグリサポート事業にも今後力を入れていきたいと考えています」、と十時さんは目をキラキラさせて今後の方針をお話ししてくれました。

近江八幡市にある株式会社リンクは、「買い手よし・売り手よし・世間よしの三方よしと、人とのつながり」を大事にし、まさに近江商人の理念を実践している会社という印象を受けました。

「農機具王」独自の農家アンケートがおもしろい

「農機具王」の株式会社リンクではとてもユニークな取組みを行っていて、コミュニケーションアプリで有名な「LINE(ライン)」を使った独自の農家グループ(約4,000人)をつくり、農業に関するアンケートを定期的に行っています。

当研究所としては、農家アンケートは非常に気になるところですので、株式会社リンク様の承諾を得てその一部をご紹介します。

農作物の生産者様に聞いた 農業をする上で困っていること

「農機具王」にて、日本の農作物の生産者様155名(10代~70代)を対象にアンケートした結果は以下のグラフの通りです。

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※引用:農機具王「農作物の生産者様に聞いた農業をする上で困っていること【2022年12月 アンケート結果】」

最も多かった回答は「必要経費の高騰」で全体の3割以上を占めています。肥料費や燃料費の高騰は経営に大打撃です。次は、「人手不足」でした。人手が足りないからこそ農業機械がさらに必要になってきます。

全ては紹介しきれませんが、他にも「農機具王が独自調査!生産者が選んだトラクターのメーカーランキング」「2023年最新版!お米の生産者が本当に欲しい農機具ランキング」などの興味深いアンケートが掲載されていました。ご興味をお持ちの方は、ぜひ農機具王のサイトをご覧になってみてはいかがでしょうか。

まとめ

以前、高額な農業機械を購入できない場合は、リースを活用する方法もあることを農機具導入の新しい選択肢による経営の効率化「JA三井リース」という記事でも紹介しました。

最近では、SDGsに対する意識の高まりやフリマアプリなどの普及によってリユースが注目されており、中古品は昔のような安かろう悪かろうでは無くなってきています。今回のコラムでは、中古農機具の活用が所得向上につながる選択肢となることへの理解が深まったのではないでしょうか。

中古農機具を購入した場合、減価償却費の計算は、耐用年数は7年では無く事業の用に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数によるのが原則ですが、簡便法により「耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20% ※年数は年未満切捨て」として計算することができます。

中古農機具をリユースすることはコスト削減だけでなく、間違いなく農業界でのSDGs(持続可能な社会)の実践にもつながっていますので、ぜひ活用していきましょう。

関連リンク

農業機械買取販売専門店「農機具王」
「農作物の生産者様に聞いた 農業をする上で困っていること」

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。