農業利益創造研究所

収入・所得

農業経営規模を拡大したくても雇用労働者がいない!

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

日本の人口が減少傾向となり、最近何かと雇用・労働問題が話題になっています。中でも、長時間労働、非正規社員、女性・高齢者の活躍、外国人労働者の受け入れなど、長期的視野での課題解決が求められています。

人手不足が激しい農業分野でも、雇用の問題は非常に重要です。今回は、農業の雇用労働について分析してみたいと思います。

外国人技能実習制度が見直しに

2023年4月10日に、政府の有識者会議が外国人が働きながら技術を学ぶ「技能実習制度」を廃止すべきだとした上で、新たな制度への移行を求めるたたき台を示しました。

技能実習制度は1993年にスタートしたもので、日本の技術を外国人に継承するという目的で外国人を雇用できる制度ですが、実際には外国人労働者を安価な賃金で雇用する仕組みだという批判もありました。

出入国在留管理庁の資料によると、2022年6月時点での国籍別在留外国人はグラフの通りで、中国やベトナムからの外国人が多いです。

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この制度の良し悪しをここで議論するつもりはありませんが、外国人の技能実習生は、実際は農業の労働者として頼りにされており、この制度が無くなると労働力が足らなくて安定的な生産ができなくなる農家が出てくるのではないかと懸念されています。

農林水産省の資料によると、農業分野の外国人労働者数は、この5年でみると1.6倍に増加していますが、2021年は新型コロナウイルスの影響で入国ができなかったせいか増加しませんでした。

そこで、農業簿記ユーザーのデータを集計し、2021年の雇人費が変化したのか調べたところ、グラフのようにすべての営農類型で収入金額に対する雇人費の割合が減っていました。

新型コロナウイルスの影響も当然ありますが、そもそも日本全体で労働者を雇用することが難しくなってきているのではないかと思われます。

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農業簿記ユーザーの雇人費を分析

ここで農業簿記ユーザーの2021年の雇人費を分析してみましょう。営農類型別・収入金額別に雇人費の平均金額を集計すると以下のグラフのようになりました。

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経営規模が大きくなると雇人費も高額になります。営農類型別に見ると、普通作は雇人費が少なく、野菜と果樹と花きは高くほぼ同額になっています。ただ、大規模の花き経営はかなり多くの人を雇用していることがわかります。

普通作は規模拡大しても大型機械を導入することでカバーできますが、野菜、果樹、花きは細かな作業が多いため人の手を必要とします。今後細かな作業も行える安価な作業ロボットのニーズが高まってくることでしょう。

世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)の額が低い経営と高い経営で、収入金額に対する雇人費の割合と、世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額)に違いがあるのかグラフにしてみました。

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折れ線グラフを見ると、世帯農業所得額が低い経営は世帯農業所得率も低く、額が高くなるほど所得率も高くなりますが、所得額が1,500~2,000万円の階層でピークとなり、その後は所得率が下がっています。

この所得率の傾向と真逆なのが雇人費の割合の棒グラフです。これらから、所得率が高い効率の良い経営は雇人費が低い経営であり、しかも所得額が1,500~2,000万円の経営が境界の規模であると推測できます。事業主と専従者が2人ほどいて、農繁期に臨時的に人を雇っているような経営なのかもしれません。

臨時的な作業者を探すマッチング

農産物の生産はすべてロボットで行うことはできません。人の手がどうしても必要ですが、経営的には忙しい時だけ雇用できるのが最適です。

近年、このようなニーズに対応するため、多少時間に余裕があり気軽に働きたい個人と、人手不足に悩む農家とをマッチングするようなネットサービスやスマホアプリが出てきています。

例えば、長野県のJAながのでは、「1日農業バイトdaywork」というスマホアプリを活用し、生産者と求職者を1日単位で結びつけるサービスを提供しています。

また、株式会社アグリトリオの「農How」もマッチングのアプリで、事前に農作業の内容を動画で見て知識を得てから働くことができます。

JAや役所の職員が農業の副業を行うことを認めてくれるケースや、旅行会社のJTBが「「農業」×「観光」×「人」 あたらしい出会いがもたらす、あたらしい価値の創造」、というキャッチフレーズで農業支援を行っていたり、今までになかった新しい多様な取組みが生まれてきています。

まとめ

外国人技能実習制度の見直しや、労働人口の減少により、外部から労働を得るために労賃を上げざるを得ないことにより生産コスト上昇が懸念されます。近年の資材や燃料の物価高騰と合わせて、今後さらに食料の値段が上がっていくかもしれません。

また今後の農業構造を考えた時に、大規模農業法人+大規模個人事業+中小個人事業+多様な兼業農家、に分かれていくのではないかと推測できます。

農業法人は年間常時雇用を行えますが、大規模個人事業は臨時雇いを如何に集めるかが大きな課題となります。農業雇用者の待遇や環境の改善は勿論のこと、人材マッチングにより、地域や社会全体から多様な労働者の農業支援がますます期待されます。

関連リンク

出入国在留管理庁「令和4年6月末現在における在留外国人数について
農業分野における外国人材の受入れについて (令和5年3月)
JAながの「1日農業バイトdaywork
株式会社アグリトリオ「農How
JTB 農業支援事業「農meets!

南石名誉教授のコメント

農作業には、高度な技能が必要な作業から、経験や技能が無くてもできる作業まで、様々な作業があります。経験や技能が無くてもできる作業については、マッチング・サービスなどの活用も、今後大いに期待されます。事前に作業内容を動画等で閲覧することで予備知識を提供する仕組みを充実させれば、ある程度の経験や技能が必要な作業であっても、マッチング・サービスが有効になりそうです。

少子高齢化が進行しているわが国では、あらゆる産業で労働力不足が懸念されています。農業経営も例外ではありませんが、体験や観光の場としての「農業」の価値を見直す動きもあり、工夫次第では労働力不足解決の秘策が、他産業よりも見つけやすいかもしれません。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。