農業利益創造研究所

インタビュー

じゃがいもパワーで美味しい牛乳を作る酪農術【農業王 2022:藤波牧場】

「農業王2022」受賞者インタビュー 北海道京極町の藤波 志伸さん

ソリマチ株式会社と農業利益創造研究所は、日本農業に無くてはならない個人事業農家を応援するために、優れた経営内容で持続可能な優良経営を実践している農業者を表彰する「農業王 アグリエーション・アワード 2022」を実施しました。

全国13,000件の青色申告決算書をもとに経営の収益性・安定性を審査して全国108人を選考し、その経営者へのヒアリング調査により経営力や持続可能性についてさらに選考を行い、北海道から九州までの9ブロックの中で、普通作(米+麦・大豆)部門、野菜部門、果樹部門、畜産部門ごとに計16人の「農業王」を選出しました。

今回は、北海道京極町の畜産部門の農業王である藤波志伸(しのぶ)さんと奥様の明子さんからお話をお聞きし、優良経営の極意をご紹介します。

平均よりも半分以下の飼料費の秘密は?

北海道京極町にある藤波牧場は、生乳生産を中心に行う酪農家で、乳牛や子牛、牧草や堆肥の販売も手掛けています。専従者は藤波さんの奥様とご両親の3名。今年から特定技能外国人を雇用しています(写真真ん中)。

藤波牧場の経営特徴としてまず特筆すべき点は、世帯農業所得率が34.7%と、全国平均の13.0%に比べて非常に高くなっています。一方の費用面を分析してみると、非常に飼料費と素畜費が低いことに気づかされます。

広大な面積を持つ北海道の酪農家は、他の地域よりも牧草地を確保しやすいため、飼料費は低くなる傾向にあります。しかし、収入を100とした場合の費用の割合で比べても、北海道の平均飼料費28.3%に比べて、藤波牧場は14.0%と半分以下です。やはり、ここには何かの秘訣が隠れていると見るべきでしょう。

まず、牧草は自分の土地と、町の採草地を利用させてもらい生産していて、十分に余るので販売にも回しているそうです。配合飼料は買っているそうですが、これについて大変興味深いお話をお聞きしました。

じゃがいもパワーでコスト減と高品質を実現!

藤波牧場ではじゃがいも加工工場から廃棄分をもらって、飼料として使っているそうです。これはなかなか珍しく、「うちの最大の特徴かもしれませんね」と藤波さん自身もおっしゃっていました。

この方法は40年以上前に当時の経営者であったお父様が導入したもので、これを藤波さんは引き継いで、試行錯誤の中で現在のやり方に辿り着きました。廃棄分のじゃがいもとパン粉は嗜好性も高いそうです。さらにじゃがいも加工工場の廃棄を減らすといったSDGsにも貢献していますし、地域の強みを生かしたナイスアイディアです。

就農して4年目の頃、普及センターの協力を得て、給与量と給与方法を変えながら、牛の健康状態と乳量・乳質の変化を観察、研究しました。「たとえば、コロッケの給飼を一日三回にしたら乳脂肪分が減ったので、一日二回に減らしました。そんな風に、より良い方法を探していったんです」とのことです。

この素晴らしい成果を、当時の北海道青年農業会議でも発表し、全国青年農業者会議にも参加したそうです。現在もこのデータを基本に改良を加えながら継続しています。

他にも添加物は必要最小限しか使わない方針で、「それを与えることが本当に牛に良い影響を与えるのか、コストに見合う結果が出るのかわからない。だから、使わないことにしています」とおっしゃっていました。

最先端デバイスを導入して発情をチェック

藤波牧場では、子牛は自分のところで産ませて育てています。「牛を健康で長生きさせると、必然的に販売することもできます」とのことです。

実は、ある牛向けウェアラブルデバイスを導入することで、この効率的な繁殖の一端を支えています。この製品は牛に取り付けたセンサーで牛の状態をリアルタイムに収集、人工知能が解析して、転倒、病気、妊娠の兆候などをいち早く教えてくれるそうです。

「育成牛は搾乳牛舎から少し離れた牛舎にいるので、人の目だけでは発情の見落としがあり、確実に調べられないかと思って、このデバイスを導入したんです」

センサーを付けているのは育成牛だけだそうですが、発情の発見は精度も非常に高くて、助かっているそうです。近年、畜産分野ではDXでの効率化が進んでいますが、これは大成功の事例と言えるでしょう。

肥料の散布作業まで協力?

藤波牧場では堆肥を作って周辺の農家に販売する循環型農業を行っており、驚くべきことに散布作業まで引き受けているケースもあるそうです。これについては、「手が足りない、散布してくれるなら買うよと言う方がいるので」と笑いながら話していました。

「個人の作った堆肥は雑草が入っている、という理由で嫌がる方もいるので、なかなか売るのが難しいんですよ。もちろんこちらも切り返しで工夫したり、雑草が入らないように気を付けてはいます。そして、定期的に普及センターに堆肥成分の簡易推定をお願いしています。買ってくれる方にはなるべく協力したいですね」

これはサービスの一環でもあると同時に、手が足りなくて散布作業が難しい農家さんへの協力とも捉えられます。農業は地域での助け合いが大切ですから、地域貢献の一環ともいえるかもしれません。

酪農を広めるために、体験の場を提供

さらに藤波牧場では、毎年小学校での写生会に協力しています。小学校の先生から、「牛は適度に動くので、小学生に描かせるにはぴったりの題材。写生に協力してくれませんか?」と頼まれたのがきっかけだそうです。

子供たちに牛のことを知ってもらう良い機会ですし、牛乳を好きになって欲しいと、写生会を楽しみにしているそうです。

現在は残念ながらコロナ禍で中断していますが、以前は写生会の後に、殺菌した牛乳と藤波さん自慢の手作りキャラメルをふるまい、小学生たちから大好評だったそうです。

「この町の子供たちはほとんどがうちの写生会に来ているので、「あの時のおじさんだよ」と名乗ると思い出してくれます。それも嬉しいですね」と藤波さんは顔をほころばせていました。

他にも、酪農学園や東京農大の酪農実習に協力したり、「食品関係の仕事に就きたいから、酪農を体験してみたい」という大学生や、「冬休みの間だけバイトしたい」という高校生を受け入れたり、修学旅行生の乳しぼり体験に協力した実績もあるそうです。酪農を広める意味でも、色んな人に積極的に体験の場を提供したい、藤波さんはそう考えているそうです。

「牛も人も快適な生活をする」のが藤波さんのモットーだそうです。「牛ができる限り健康に、のんびりストレスなく生活してくれることを目指しています。それが乳量・乳質UPにつながり、経営が持続可能になると思いますし、そのための様々な工夫をこれからも続けていくつもりです。しかし、人が牛の世話に追われて疲れ果ててしまっては元も子もありません。大規模化は考えてはいませんが、今後も大型機械やAIを活用し、作業の負担軽減や時間短縮を目指し、自分なりの酪農経営を確立していきたいです」

藤波さん夫妻はまだお若いですが、「そろそろ後継者について考えないと、と思うこともあります」とコメントしておりました。様々な方に酪農の場を提供し、愛されてきた藤波牧場ですから、きっと素晴らしい後継者にも出会えるに違いない、とお話を聞きながら、感じさせられました。
農業王の受賞、おめでとうございました。

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ソリマチ株式会社「「農業王2022」 受賞者決定!

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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