
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
私が茨城のJAグループに勤めていた時、もし自分が茨城県で農業をやるとするならレンコン経営だな、と思っていました。理由は安定的に稼げるからです。
農業県、特に園芸県でもある茨城県では、白菜やレタスなどの大型露地野菜やメロンやピーマンなどの施設野菜で大きくいる農家はたくさんいます。しかしそのなかでレンコン経営は、高位安定という特徴がありました。つまり単年度に儲かるだけでなく、長期的にみて大きく落ち込む年がほとんどないのです。これは制御不能な自然環境に毎年左右される農業経営にとって、実に魅力的な特徴です。
もちろん今となっては、私がレンコン農家になる可能性は限りなくゼロですが、仕事上、今も安定した作物であるかどうかは大変気になるところです。またレンコンが儲かるのは全国の半分のシェアを持つ茨城県としての特徴なのか、それとも全国的にも儲かる野菜と言えるのかどうかについても確認しておきたいところです。
ということで今回は、レンコン経営の収益性や所得率、経営コストの推移などを最新データから検証してみます。
レンコン農家の収入・所得率はどれくらいか(最新3年データ)
以下は、レンコンを一番に作っている経営体の3年間の平均経営概要です。データは、全国の農業簿記の個人ユーザとJA茨城グループの記帳代行データを合わせたものです。
| 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|
| 経営件数 | 162 | 163 | 155 |
| 販売金額 | 16,266 | 16,156 | 18,083 |
| 収入金額合計 | 18,907 | 21,154 | 21,183 |
| 費用合計 | 13,180 | 14,540 | 14,208 |
| 世帯農業所得 | 5,727 | 6,614 | 6,975 |
| 所得率 | 30.3% | 31.3% | 32.9% |
※金額の単位は千円
これによると、この3年間は収入金額合計や所得率にあまり大きな変化がないことが解ります。この期間は猛暑や資材価格の高騰などがあり、それらが多くの農業経営に影響を与えてきましたが、レンコン経営においてはその影響があまりみられません。この理由は様々ありますが、レンコンは出荷時期が長く、また田んぼで暑さや水不足を調整できるので、時々の市場価格や気候の変動に対処しやすいということがあげられます。また価格という点では、全国的に産地が限られているため新規参入が難しく(寡占状況)、計画的な出荷体制が取りやすいこと、消費の点からは代替品がないということも安定の理由と上げられます。
いずれにしてもレンコン経営が安定していることは、今も変わらないようです。
レンコンは他の野菜より儲かるのか(野菜経営平均との比較)
2024年の全国の野菜経営平均(茨城県の記帳代行データを除く)と比較した、レンコン経営の水準を確認します。
| 野菜経営 平均 | レンコン 経営平均 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 収入金額合計 | 24,889 | 21,183 | -3,706 |
| 世帯農業所得率 | 27.3% | 32.9% | 5.7% |
※金額の単位は千円
これによると、レンコン経営は野菜経営平均と比べると3,706千円ほど経営規模は小さいものの、所得率は5.7ポイント高くなっています。これを一言でいうと、規模は大きくないものの効率の良い経営が特徴と言えます。
但し経営規模に関しては、タマネギやジャガイモなどの北海道の大型露地経営が、野菜経営の平均値を押し上げています。これら北海道の経営体を除いた野菜経営の収入金額合計の平均は17,429千円であり、それと比較するとレンコン経営はむしろ大きいほうと言えます。
また所得率は、スイカ経営34.6%、メロン経営34.4%、イチゴ経営32.7%に次ぐ位置ですが、これら“甘い野菜”を除くと、サツマイモ経営の32.1%(前年29.3%)を抑えて、レンコン経営がトップになります。つまり経営効率は野菜の中でもトップクラスと言えます(参考『猛暑の影響は野菜経営にどう表れたか 2024年の野菜経営の経営概況を確認する』)。
尚、2024年の茨城県の記帳代行データを見ますと、レンコン経営は単作経営が最も多く(次に稲作との兼営)、単作経営の所得率は39.9%と非常に高くなっています。
では茨城県以外のレンコン農家の状況はどうでしょうか。2024年の経営データ155件のうち、134件が茨城県のデータです。茨城県の次にデータ件数が多いのは7件の徳島県であり、それ以外の県を含めた概況は以下の通りです。どこの県のレンコン経営も所得率は高いことがわかります。つまりレンコン経営は地域に限らず儲かるということです。
| 徳島県 | 茨城県・ 徳島県以外 |
|
|---|---|---|
| 経営件数 | 7 | 14 |
| 収入金額計 | 12,142 | 14,140 |
| 世帯農業所得率 | 32.1% | 32.5% |
※金額の単位は千円
レンコン農家の生産コスト内訳と経営効率の特徴
次にレンコン経営の主な生産費の構成(各費用÷収入金額合計×100)を見てみます。
| 2024年 | 野菜経営 平均 | レンコン 経営平均 | 差 |
|---|---|---|---|
| 経営件数 | 5,910 | 155 | -5,755 |
| ⑨種苗費 | 3.7% | 4.4% | 0.6% |
| ⑪肥料費 | 6.6% | 5.0% | -1.6% |
| ⑭農薬・衛生費 | 4.5% | 1.6% | -2.9% |
| ⑮諸材料費 | 4.6% | 7.9% | 3.2% |
| ⑰動力光熱費 | 5.0% | 4.2% | -0.8% |
| ⑳減価償却費 | 7.6% | 4.7% | -3.0% |
| ㉑荷造運賃手数料 | 15.6% | 13.4% | -2.2% |
| ㉒雇人費 | 5.1% | 8.8% | 3.7% |
| ㉔地代・賃借料 | 4.6% | 4.0% | -0.6% |
野菜経営平均(茨城県の記帳代行データを除く)と比較してレンコン経営のほうが大きい費用は、雇人費の8.8%、諸材料費の7.9%となり、小さい費用は減価償却費4.7%と農薬・衛生費1.6%となります。
レンコン経営は、大きな設備投資もいらず農薬もほとんど使わないことが強みであるものの、掘り取り作業に人手がかかるのが弱点だとは聞いていましたが、見事にそれが数値に表れています。
レンコンの所得率は昔より落ちたのか(10年前との比較)
ここまでレンコン経営を「規模は大きくないものの所得率の良い経営が特徴」と記しましたが、私の正直な感覚としてレンコン経営の所得率はもっと高いと思っていました。自分がやりたいと思ったぐらいですから、もっと儲かるものだと思っていたわけです。幸い数は多くないのですが、十数年前の茨城県の記帳代行データが手元にあるので、その頃のレンコン経営のデータをまとめてみました。以下がその概要です。
| レンコン平均 | 2011年 | 2012年 | 2013年 |
|---|---|---|---|
| 経営件数 | 41 | 44 | 47 |
| 販売金額 | 20,055 | 20,658 | 20,577 |
| 収入金額合計 | 22,638 | 21,906 | 21,939 |
| 費用合計 | 13,108 | 13,598 | 13,840 |
| 世帯農業所得 | 9,529 | 8,308 | 8,099 |
| 所得率 | 42.1% | 37.9% | 36.9% |
※金額の単位は千円
これと近年の数値と比較すると、収入金額合計は大きな変化はありませんが、所得率は落ち込んでいることが解ります。2022年~2024年の3年間の平均所得率は31.5%ですが、2011年~2013年の平均(茨城県の記帳代行データ)は、38.9%です。つまりこの十数年間で7.4ポイントも所得率が減少しているわけです。やはり昔はもっと儲かっていたのですね。
ではこの落ち込みの原因は何でしょうか。まず収益面を見てみます。
以下は東京都中央卸売市場におけるレンコンの数量・金額・単価について、2011年を1としたときの推移を表したものです。
これによると、「金額」はこの13年間で-5%~+25%のレンジで推移しています。但しこれは2016年を頂点とした大きな動きがあるためで、2011年~2013年の3年平均と2022年~2024年の3年平均を比較すると、ほとんど変化はありません。つまり近年のレンコンの収益状況は10年前とあまり変わっていないと思われます。
では次に、この期間の費用構成(各費用÷収入金額合計×100)を比較してみます。
| 2011~ 2013年平均 | 2022~ 2024年平均 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 経営件数 | 44 | 160 | 116 |
| ⑨種苗費 | 3.3% | 4.4% | 1.1% |
| ⑪肥料費 | 4.4% | 5.8% | 1.5% |
| ⑭農薬・衛生費 | 1.2% | 1.6% | 0.4% |
| ⑮諸材料費 | 6.8% | 7.8% | 1.0% |
| ⑰動力光熱費 | 3.7% | 4.4% | 0.7% |
| ⑳減価償却費 | 5.1% | 5.2% | 0.1% |
| ㉑荷造運賃手数料 | 15.8% | 12.9% | -2.9% |
| ㉒雇人費 | 5.3% | 8.6% | 3.3% |
| ㉔地代・賃借料 | 3.8% | 4.1% | 0.3% |
※金額の単位は千円
近年(2022~2024年)は、荷造運賃手数料の割合が2.9ポイント下がっていますが、その他全ての生産費の割合は上がっています。特に雇人費は3.3ポイント上昇しており、全体のコストを大きく押し上げています。つまり近年のレンコン経営は、収益は安定しているものの費用は人件費をはじめすべての生産費が上昇しており、それが昔に比べ所得率を下げる原因になっているということです。
上述したように「レンコンは機械はいらないが人手が必要」という特徴がありましたが、近年はこのうち弱点の方が大きく経営に響いてきているようです。私が茨城県にいた当時は、多くの中国人の技能実習生がレンコン農家にも入っていましたが、最近は円安等の影響もあり外国人の労働力も得難くなってきているのかもしれません。国内の労働力不足による人件費高騰の流れは今後も続くと思われ、そうであるならレンコン農家の“緩やかな苦難”もしばらく続きそうです。
以上、レンコン経営の概要とその推移を見ていましたが、労働力不足と生産費高騰によって昔ほどではないまでも、今も「安定して儲かる作物」といってもよいでしょう。しかしレンコンが儲かる作物だからと言って、「うちの米の田んぼも蓮田に転用しよう!」とはなかなかいかないと思います。というのは、レンコン栽培には超重粘土質の土壌と豊富で安定した水量が必要で、この条件に合う土地は日本中でも極めて限られているからです。だから儲かる野菜といえども全国各地で作ることができず、それゆえレンコンが作れる産地は安定して儲けることができるのです。
農業経営には、「地の利」も大事な要素なのですね。
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、レンコン経営の財務的な特徴が明らかになりました。気象や市場の環境変化がある中、10年以上の長期間にわたって、高い所得率を安定的に維持していることも確認されました。
ただし、雇人費や肥料費に増加傾向が見られる一方で、販売単価は一時期上昇しましたが近年は10年前の水準まで低下しています。
レンコン栽培に適した水田は、全国的にみても限定され参入障壁が高いという有利性がレンコン経営にはありますが、今後の長期的な経営発展には、新たな需要創出やさらなる省力化技術の導入が求められるかもしれません。
