農業利益創造研究所

作目

普通作農家の経営戦略は? 米と転作の割合を考える

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

稲作ほど日本各地で広く生産されている農作物は無いでしょう。長い歴史を通じて日本の主食なので当然かもしれませんが、実は現在は米だけ作っている専業の米農家というのはそう多くありません。減反政策の流れで、米農家は米を減らして麦や大豆等をつくっている場合が多いのです。

これら主食系の穀類や蕎麦などを普通作物と呼びますので、麦や大豆も作る米農家は普通作農家と呼ばれることも多いと思います。

実はこの普通作農家、米と米以外作物を作る割合で経営内容が随分変わってきます。米は麦や大豆などよりも高値で売れますが、麦や大豆の転作作物には補助金(経営所得安定対策他)が付いてくるので安定した収入が期待できます。こうしたことから、どちらをどれだけやるかというのが普通作農家の重要な経営戦略になっているのではないでしょうか。

今回は、全国の普通作農家の経営が、この戦略によってどのくらい違うのかを見ていきたいと思います。

米価が下がると補助金依存型は強い

以下は2021年の普通作農家の所得率毎にグループ化したデータです。(A)は収入金額合計に含まれる普通作の販売金額の割合です。普通作の販売金額とは、ほとんどが米の販売高と考えて良いでしょう。(B)は普通作経営のかたわらで生産している野菜や果樹等の普通作以外の販売高の割合です。(C)は収入金額合計の中に含まれる共済金や補助金等の割合です。

さて、これによると所得率が低いグループ(左2列)は、普通作販売高(≒米販売高)の割合が高く、所得率の高いグループ(右2列)は補助金等の割合が高くなりました。また、普通作以外の作物の割合も高いようです。つまり、高所得率のグループは比較的、転作や野菜等の他品目に力を入れている経営体で、米の依存度が高い経営体は所得率が低い状況になっています。

2021年 普通作経営体
所得率(経営体数)
15%未満
(1,082)
5~15%未満
(543)※1
平均
(3,179)
30%以上
(846)
40%以上
(266)
A)普通作販売高 ※255.6%55.2%52.4%50.0%49.4%
B)普通作以外の販売高 ※27.3%7.8%9.1%10.4%10.2%
C)共済金・補助金等受取額 ※223.9%24.9%27.3%29.6%29.5%
世帯農業所得率5.6%10.9%24.1%37.7%44.9%

※1)所得率5%以下は採算性を考慮しない飯米農家(小規模第Ⅱ種兼業)が多いと仮定し集計から省いた。
※2)収入金額合計を100%とした場合の割合。

但し、2021年は米価が大きく下がった年です。そのような年は、(A)の米の依存度が高いパターンは所得率が低くなるのは当然かもしれません。

以下は、2020年のデータを、上記と同様な形で分析したものです。これによると2021年ほど各所得率のグループに(A)(B)(C)の目立った傾向がみられません。あえて言えば高所得率のグループは(A)が若干高いということぐらいでしょうか。

2020年 普通作経営体
所得率(経営体数)
15%未満
(793)
5~15%未満
(434)※1
平均
(3,138)
30%以上
(1,171)
40%以上
(371)
A)普通作販売高 ※259.1%58.5%58.7%59.5%60.9%
B)普通作以外の販売高 ※28.0%8.0%9.5%9.7%8.2%
C)共済金・補助金等受取額 ※220.2%21.2%21.5%21.6%20.8%
世帯農業所得率6.4%10.8%27.2%37.9%45.5%

※1)所得率5%以下は採算性を考慮しない飯米農家(小規模第Ⅱ種兼業)が多いと仮定し集計から省いた。
※2)収入金額合計を100%とした場合の割合。

つまり、当たり前の話しかもしれませんが、米価が高い年は(A)が高い経営体が有利で、低くなると(B)や(C)が高い方が有利になるということです。

問題は、経営者として今後の米価の動向を考え、(B)(C)の厚みをどの程度にするのか、ということでしょう。

特に(C)は天候や市場価格に左右されないので、米価が高騰した時でも大きな儲けは期待できませんが、どんな年でも一定の収入が計算できるという利点があります。収入が計算できるというのは、例えばローンを組んだり、人を雇ったりする時など、経営を長期的に考えなければならないケースでは大きなメリットになります。

米依存地域は厳しい状況

さて、地域ごとにみるとどうなるでしょうか。以下は2021年の地域ごとの(A)(B)(C)の割合です。やはり新潟県のある北陸地域は米の依存度が高いため、所得率を大きく落としています。新潟県のコシヒカリは、今でも米価の全国平均の約2~8千円/60㎏ほど高値で売買されます。したがって新潟県は昔から“米で勝負する”農家が多いのでしょう。

対して関東甲信地域や九州地域は補助金(転作)依存度が高く所得率も高めです(北海道を外した都府県の普通作経営の平均所得率は21.3%)。

目を引くのは北海道でしょう。(B)が高く(A)と(C)は中間ぐらいです。また(A)も米の販売高だけではなく、およそ麦や大豆の販売高も結構な割合があると思われます。つまり一番収益構造が分散している北海道が、最も高い所得率をあげていることです。

2021年 普通作経営体
地域(経営体数)
北海道
(919)
東北
(753)
北陸
(544)
関東甲信
(289)
近畿
(158)
中国
(180)
九州
(135)
A)普通作販売高 ※250.3%53.7%64.2%46.0%56.7%55.3%46.4%
B)普通作以外の販売高 ※211.1%8.3%6.0%7.2%7.1%6.7%7.2%
C)共済金・補助金等受取額 ※230.1%23.2%16.5%34.1%25.0%23.7%35.1%
世帯農業所得率27.3%21.8%19.6%24.2%18.3%20.0%21.8%

※1)東海・四国地域は普通作の経営体数が比較的少ないので割愛した。
※2)収入金額合計を100%とした場合の割合。

では、2021年より米価の良かった2020年はどうでしょうか。

全般的に(A)は高くなり、北陸地域は70.5%となりました。しかし所得率も22.9%と振るいません(北海道を外した都府県の普通作経営の平均所得率は24.7%)。そして(C)の高い九州地域もはやはり所得率は低めになっています。ここでも所得率が高いのは北海道で、(A)(B)(C)のバランスが比較的取れている傾向は2021年と変わりません。また(A)が2番目に大きい東北地域、(C)が2番目に多い関東甲信地域も比較的(B)が多く、所得率が高くなっています。

こうみると米価が比較的高かった2020年も、米の依存度が高い経営体が良かったわけではなく、バランス型系が良かったということが言えそうです。

2020年 普通作経営体
地域(経営体数)
北海道
(883)
東北
(796)
北陸
(493)
関東甲信
(315)
近畿
(167)
中国
(178)
九州
(116)
A)普通作販売高 ※256.3%61.5%70.5%54.3%62.0%60.4%47.0%
B)普通作以外の販売高 ※211.0%9.6%6.5%7.8%6.7%5.7%7.0%
C)共済金・補助金等受取額 ※224.9%16.1%11.2%24.7%22.0%20.7%35.1%
世帯農業所得率30.1%26.3%22.9%26.1%23.4%21.2%22.4%

※1)東海・四国地域は普通作の経営体数が比較的少ないので割愛した。
※2)収入金額合計を100%とした場合の割合。

近年の米価水準から米に特化するのは厳しいのか?

以下は毎年10月時点の米価全銘柄の全国平均の10年間の推移です(農水省「米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等」より)。

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ここでも確認できるように。やはり2021年は落ち込み、2020年は比較的高い水準にあります。しかしその2020年でさえ、上記の通り米販売の比重が高い北陸地域の所得率は低い結果でした。したがって過去10年間で最も高かった2019年の米価水準になっても、米依存度が高い地域の所得率はそう大きくは上がらないことが予想されます。

この先米価がどう推移するかは分かりませんが、ここまでの状況から見れば米に特化するのは、ブランド化していたり、特別な販売先があったりする農家以外、かなり厳しい状況になるのかもしれません。かといって国の財政が悪化している中で、この先も補助金が今の水準で出続ける保証もありません(もちろん来年・再来年に無くなるわけではないので、中期的な見込みは充分たちますが)。

結局そのように先がなかなか見えないとなると、普通作農家は米もしくは転作補助金のいずれかに特化しすぎる経営はリスクがあるのではないでしょうか。

普通作農家の経営戦略が、大きく問われる時代になりました。

南石教授のコメント

主食である米の流通や価格が、政府によって統制されていた時代もありました。その後、需要減少や様々な規制緩和がなされ、他の農産物と同じように、米価も変動する時代になってきています。

このことは、米も普通の作物になったことを示しているかももしれません。こうした経営環境の下では、リスク分散のため複数の作物を組み合わせて栽培することも有効といえます。

栽培作物の選択には、現有の農地や農業機械・施設の有効活用、栽培技術、販路等を総合的に勘案することが求められますが、こうした経営判断により、普通作農家の所得に大きな違いがみられる時代に入っていると言えそうです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所