
個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
前回に引き続き、今回は2023年の品目類型ごとの地域動向を見てみます。
普通作経営

まず普通作経営です。普通作経営の多い北海道、東北地域、北陸地域が右下向き(収入拡大・所得率低下)となっていますので、普通作平均も右下向きとなっています。この3地域に共通しているのは、米の販売高が上がったものの費用、特に肥料費の増加などが多いことです。このため所得率を落とすことになりました。
上記3地域に並ぶ経営件数がある関東・甲信地域は、右上(収入拡大・所得率上昇)に向いています。関東・甲信地域の普通作農家は、米の販売高が増加したことは同じですが、費用はほとんど変化がないことから(肥料費は減っている)、所得率が大きく増加することになりました。2024年の普通作経営は販売高増加よりも費用(特に肥料費)をいかに抑えられたがが、経営の明暗を分けたのかもしれません。
野菜経営

野菜経営は様々な品目があるものの、ほとんどの地域で収入金額が増加しています。但し所得率になると、結果が分かれました。所得率が大きく伸びたのは、関東・甲信地域と東海地域です。逆に大きく下がったのが北海道となりました(九州・沖縄地域は2021年から2022年の落ち込みが大きい)。
関東・甲信地域と東海地域は、共に野菜の販売金額が伸びています。同時に費用も伸びていますが、収益の3~4分の1程度の伸びなので、所得率が大幅に改善することになりました。
北海道は、販売額はほとんど変わっていませんが雑収入が大きく増加しています。但し肥料費も大きく上がっているため、所得率を大きく落とすことになりました。もしかしたらこの雑収入は、高騰した肥料費の対策費関連かもしれません。そのおかげか、結果的に所得金額は前年並みとなっています。
果樹経営

果樹経営で件数が多いのは、東北地域、関東・甲信地域、中国地域、四国地域ですが、大きな動きはほとんどない状況です。
果樹の主要な産地である、山梨県、長野県、岡山県、愛媛県では、すべて動力光熱費と荷造り運賃手数料が減少しています。燃油高騰の影響は一段落したということでしょうか。
青森県は果樹の販売金額が上昇したものの、最終的な損益はほとんど変化なしです。
また和歌山県は販売金額が大きく減少したため、近畿地域としても左下(収入減少・所得率低下)の動きになりました。
酪農経営

酪農経営は比較的動きの大きい年になりました。経営件数の多い、北海道、東北地域、関東・甲信地域は全て右上(収入増加、所得率上昇)に動いたので、全体平均も右上に動きました。
このうち最も大きく改善されたのは東北地域で、飼料費が前年比で12.2%増加したものの、牛乳の販売金額も前年比で16.0%、雑収入が19.2%と大きく伸びました。これにより所得率が4.0ポイント改善し、世帯農業所得も2,797千円増加しました。2024年は雑収入が若干減るかもしれませんが、販売高がこの水準なら所得率10%は維持できるかもしれません。頑張ってほしいですね。
肉用牛経営

肉用牛は、九州・沖縄地域が164件と最も多く、次いで東北地域の63件となります。この2地域とも左下向き(収入減少、所得率低下)となっているため、全体平均も同様な動きになりました。
九州・沖縄地域は、素畜費や飼料費が大幅に減少していますが、それ以上に肉用牛の販売金額が落ち込んだので、結果的に所得率を3.1ポイントも減少させることになりました。但し、肉用牛経営の中でも、繁殖経営と肥育経営では経営結果が大きく異なるのではないかと推察されます。それは繁殖経営では、素牛(子牛)価格の低下は費用の減少にはほとんどつながらない反面、収益の大きな減少要因になり、肥育経営はその逆となるからです。
したがって、このベクトルで表示された肉用牛平均の動きよりも、繁殖経営はさらに悪化しており、肥育経営はそれほど酷くないことが予想されます。この辺りは今後機会を見て、さらに詳しく見ていきたいと思います。
花き経営
花きの経営体数は、東北地域と関東・甲信地域が多く、次いで東海地域と九州・沖縄地域となります。各地域とも所得率は低下していますが、その原因は一様ではありません。
東北地域は動力光熱費などの費用が低下していますが、それ以上に花きの販売金額と雑収入が低下したことにより、所得率を下げました。
関東・甲信地域はほとんど変化がなく、九州・沖縄地域は花きの販売金額が大きく伸びたものの、種苗費や雇人費も大きく増加したため、所得率を下げることになりました。雇人費が増加し所得率を下げたのは東海地域も同様です。

以上、品目類型ごとの地域動向を見てきましたが、農業経営も地域や作物ごとの状況は異なります。
農業経営者の方は、是非自分の経営の推移と比較してみてください。
関連リンク
農業利益創造研究所「「2023年農業経営動向」3年間の経営ベクトルを検証する(1)」
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、品目類型ごとの2021年~2023年の3か年の地域別動向が明らかになりました。同じ品目類型でも地域によって所得率や収入金額の増減動向が異なっていることがわかり興味深いです。
このことは、農地条件、気象環境、市場環境など農家を取り巻く経営環境が様々であり、農家の保有する経営資源や技術が多様である、ということを意味しています。こうした多様性は農業の特徴の一つであり、わが国全体で見れば農業生産全体の変動リスクを軽減し安定的な農業生産を維持することに貢献しています。
個々の農家の視点でみれば、生産や経営を維持発展するための全国的に標準化されたマニュアル的なノウハウや技術が役立ちにくいとも言えます。換言すれば、農業は創意工夫の余地が大きなやり甲斐のある職業ですが、ノウハウや技術を自ら蓄積・習得する必要があります。このため、収量や品質に大きな差が生じ、農家間で売上、経費、所得のバラツキが大きくなる場合もあります。

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