農業利益創造研究所

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茨城の経営データを見てみっぺょ

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

茨城県は、農業産出額約4,500億円の全国3番目の農業県です(R5年)。レンコン、水菜、青梗菜、メロン、ピーマン、小松菜、栗、日本ナシは全国1位の生産量をほこり、2位、3位まで挙げたらきりがありません。

そのような茨城県ですが、農業利益創造研究所にある2024年の農業簿記データは232件と少ない状況です(1県平均335件)。理由は色々あるのでしょうが、茨城県はJAグループで記帳代行をやっており、そのデータがまるまる抜けていることが大きいと思われます。しかしこれだけの農業県のデータが不足していることは、全体の分析にとっても大きなマイナスです。したがってこの度、JA茨城県中央会に「茨城県 農家経営の現況」という記帳代行テータの集計冊子の提供を申し入れてみました。すると即座に快諾いただき、早々に3か年分の冊子を頂くことができました。誠に感謝申し上げます。

ということで、今回は農業簿記ユーザデータとJAの記帳代行データを合わせた形で、農業県である茨城県の分析を行ってみます。

農業簿記データとJA記帳代行データの内訳

まず農業簿記データとJA記帳代行データの内訳を確認します。

今回提供いただいた2024年のJA茨城県の記帳代行データは1,347件で、農業簿記個人ユーザーの5.8倍ほどありました。合計すると1,579件となり、県別に見た農業利益創造研究所の持つデータの中では北海道に次ぐ2番目の件数です。尚、経営規模(収入金額合計)平均は30,358千円となり3位、世帯農業所得額平均は8,447千円とこれも北海道に次いで2位です。どうやら農業県の実態にデータが近づいたようです。

農業簿記
個人ユーザー
JA記帳代行茨城合計農業簿記
全国平均(個人)
経営件数2321,3471,57915,780
販売金額24,64927,22926,85020,300
収入金額合計28,18530,73230,35824,358
費用合計20,91122,08221,91017,568
世帯農業所得7,2748,6498,4476,791
所得率25.8%28.1%27.8%27.9%

※金額の単位は千円

主要経営品目の経営ベクトル

では、茨城県の主な第一主幹品目ごとの経営を見てみますが、その前に2024年の品目経営毎のデータの内訳を確認します。ちなみにレンコン経営は、農業利益創造研究所の持つ全国合計(33件)よりも茨城県1県の記帳代行データの方が多くなりました。

品目 農業簿記
個人ユーザー
JA記帳代行 茨城合計
主食米47294341
レタス158398
ネギ138497
レンコン13122135
イチゴ127385
サツマイモ95968
トマト93746
日本ナシ74855
白菜75057
メロン6103109
キュウリ46367

以下は、茨城県の主要作物経営毎の経営ベクトルです。

まず茨城県平均は、全国よりも経営規模が非常に大きく所得率は同程度という状況です。今回の茨城県の経営データには畜産経営は多くありません。したがって茨城県は、稲作や園芸の大規模個人経営が多いことになります。

次に、「猛暑の影響は野菜経営にどう表れたか 2024年の野菜経営の経営概況を確認する」や「2024年の果樹経営と花き経営の概況をベクトルで見る。」などの茨城県の記帳代行データ抜きの全国平均と経営品目ごとに比較すると、茨城県のメロン経営とサツマイモ経営は、規模が大きいものの所得率は全国平均を下回っています(全国メロン経営:総収益23,104千円、所得率34.4%、全国サツマイモ経営:総収益22,808千円、所得率32.1%)。また日本ナシ経営は、経営規模は同水準ですが、ここでも所得率は全国平均を下回っています(全国日本ナシ経営:総収益16,538千円、所得率38.7%)。これらは茨城県の代表品目ですので、ちょっと意外な傾向です。もちろん白菜経営とレタス経営などは、全国平均よりも規模・効率共に上回る品目もありますが、概して利益効率よりも経営規模を優先している経営体が多いような印象を受けます。

県全体のベクトルは右上に伸び、これは普通作(稲作)経営の影響を強く受けた結果であることは全国と同じ状況です。但し茨城県の場合は、白菜経営やレタス経営など右上に大きく伸びた経営体の数や規模も大きいため、それらが全体に与えている影響も大きいと思われます。ここも園芸県の特徴が出ているところでしょう。

地区別の経営状況

まず茨城県を4地区に分けました。これは今回提供いただいたJAの記帳代行データが、JAごとのデータであるためこのような区分になりました。

地区ごとの経営概要と経営ポジション・ベクトルは以下の通りです。

2024年 県北地区 鹿行地区 県南地区 県西地区
経営件数 231 299 423 625
販売金額 20,046 38,478 19,994 28,042
収入金額合計 24,280 39,799 23,807 31,879
費用合計 18,983 29,565 16,950 22,328
世帯農業所得 5,297 10,234 6,857 9,551
所得率(%) 21.8 25.7 28.8 30.0

県北地区から見てみます。ここは経営件数、経営効率(世帯農業所得率)ともに県内で最も低い値となりました。茨城県は平らな土地が多いイメージがありますが、水戸市より北部は山間部が多くなり、農業経営には不利な土地が多くなります。このことがこの地区の経営状況に表れていると思われます。なお、231件のうち、81件が稲作経営で14件がメロン経営となります。メロン経営14件のほとんどは、鹿行地区に隣接する茨城町の経営体と思われます。2023年から右上にポジションが移動したのは、稲作経営の影響でしょう。

次に鹿行(ろっこう)地区です。鹿行地区の経営体数は299件と多くはないですが、経営規模は39,565千円と最大です。鹿行地区は、市町村別の農業産出額で全国三位の鉾田市があり、昔からメロンの日本一の産地です。近年は同地区の行方市とともにサツマイモの生産も大きく伸ばしており、地区全体で全国有数の園芸産地となっています。

このことから、経営データもメロン経営86件、サツマイモ経営53件が多くなり、次いでイチゴ経営31件となっています。所得率も2023年は県トップでしたが、2024年は県平均を下回りました。これは主力のメロンやサツマイモが落ち込んだことの影響と、鹿行地区は稲作のウェイトがあまり大きくないので、2024年の米価高騰の影響にあまりあずかれなかったことが原因と思われます。所得率は落ちたものの収入金額合計さらに伸びたため、2024年の所得額も10,234千円と県下で最大となりました。

県南地区を見てみます。県南地区は収益規模が県内も最も小さいものの、所得率は平均を上回っています。県南地区は米の生産が中心の地区(108件)なので、2024年度は米価の高騰により、県全体の上昇に合わせ規模と所得率が共に上昇しています。

ただこの地区で稲作経営よりデータ数が多いのがレンコン経営で121件あります。茨城県のレンコンは全国で50%以上のシェアを持ち、大田市場では90%を越えています。その茨城県のレンコンのほとんどは、霞ケ浦周辺の県南地域で生産されています。レンコン経営は経費が掛からず、所得率が高位で安定しています。県北地区と比較して県南地区の所得率が高いのは、このレンコン経営の影響が強くあると思われます。

最後に県西地区です。県西地区は、規模は鹿行地区に及びませんが所得率では2024年に県下トップになりました。経営データは稲作経営137件、レタス経営97件、ネギ経営70件、白菜経営54件、キュウリ経営46件、日本ナシ経営が41件と多岐に渡っています。鹿行地区と同じ園芸地区ですが、県西地区の場合は稲作も多く、また、レタスや白菜などの大型葉物野菜が多いのが特徴です。それらの作物が2024年は軒並み良かったので、地区全体のベクトルも右上に大きく上昇しました。

2024年期末の財務の概要は以下のようになりました。資産(預金)から負債(買掛金+借入金)を引いた額では、鹿行地区が11,659千円と最も大きく、次いで県西地域となりました。これは2024年の損益結果を概ね反映した結果と言えます。

茨城県全体の平均は5,714千円となり、農業簿記個人ユーザーの全国平均を大きく上回ります。これは預金(JA貯金)の残高が、全国の2倍近くあることが大きな原因です。茨城県の農家は、かな~り“お金持ち”ということになりますが、これを経営の視点で見れば財務基盤が厚く、まだまだ経営を大きく高度化できる余力があるということです。所得率も伸び悩んでいることもあり、茨城県はまだまだ経営的に伸びしろがあると思われます。

(単位:千円) 県北地区 鹿行地区 県南地区 県西地区 茨城県平均 農業簿記個人ユーザー全国平均
経営件数 211 284 402 593 1,490 9,618
①預金 11,716 16,571 7,528 12,581 11,856 6,669
②買掛金 681 1,395 440 1,101 919 419
③借入金 8,150 3,516 5,455 4,840 5,222 6,737
①-②-③ 2,885 11,659 1,633 6,641 5,714 -487

以上、JAの記帳代行データを合わせた形で、茨城県の農家の経営を見てきました。農業県であることから大きな経営体が多くありましたが、経営品目の多さも非常に特徴的です。

全国にはまだまだ記帳代行を行っているJAが多く、それらのデータは農業利益創造研究所の手元にはありません。いつかこれらのデータをひとつに集めて分析ができるようにしていきたいものです。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、農業簿記ユーザデータとJAの記帳代行データを合わせた形で、茨城県の農家経営の現状が明らかになりました。 統計分析を行う際に、いつも気になるのは、利用するデータの特性です。今回の分析で用いた、茨城県の農業簿記ユーザデータは、農業簿記を利用している個人農家ユーザのデータのうち、一定の精度があると考えられるデータです。

このデータは、茨城県の農家全体からみれば一部の農家のデータであり、茨城県全体の農家の現況を表すわけではありません。JAの記帳代行データについても同様で、茨城県全体の農家からみれば、一部の農家のデータです。この両者のデータを合わせれば、茨城県全体の農家の数に近づきますが、農業センサスの様に全農家を対象にしたデータではありません。

ただし、全ての農家を対象に、今回のような財務分析を行うことは、現実には困難ですし、費用対効果を考えるとその必要性にも疑問があります。重要な事は、明らかにしたい内容に、適したデータはどのようなものかという視点のようです。茨城県の簿記記帳(JA代行含む)を行っている農家全体を母集団と考えた場合、今回の分析は、その母集団の財務状況を表す結果が得られたようです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所