農業利益創造研究所

収入・所得

肥料費の高騰で、2023年の農業経営はどうなったか。肥料費から見た主要品目の影響を考える

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

近年の原油をはじめとする農業資材の高騰は、農業経営者を大変悩ませました。

以下は、2021年~2023年の全国の農業簿記ユーザーのうち、青色申告経営体約1万件の費用平均です。このうち2023年と2021年と比較して多くの費用が増加している中、突出しているのが肥料費です。2年間で平均416千円、34%も増加したことになります(減少した費用では素畜費が非常に大きいですが、これは別の機会で取り上げたいと思います)。

肥料は、ほぼ全ての農業に不可欠な資材なので、これが大幅に増加したことは日本の農業経営にとって深刻なダメージでした。今回は、この肥料費の増加による影響を経営品目ごとに見ていきたいと思います。

2021年
(a)
2022年
(b)
2023年
(c)
(c)-(a)(c)÷(a)
⑧租税公課50950952213102.5%
⑨種苗費67568570631104.6%
⑩素畜費436296286-15065.5%
⑪肥料費1,2081,3321,624416134.5%
⑫飼料費1,2971,3641,422>125109.6%
⑬農具費245221222-2390.6%
⑭農薬・衛生費1,0541,0601,13177107.3%
⑮諸材料費84484685714101.6%
⑯修繕費9209139233100.3%
⑰動力光熱費1,0321,1861,133101109.8%
⑱作業用衣料費7880824105.5%
⑲農業共済掛金4024034075101.2%
⑳減価償却費2,2432,2242,26623101.0%
㉑荷造運賃手数料2,2932,3022,398104104.6%
㉒雇人費9679831,03365106.8%
㉓利子割引料5653561101.5%
㉔地代・賃借料1,0321,0191,08048104.6%
㉕土地改良費15916416910106.4%

※金額の単位は千円

2022年後半から上がり始めた肥料費

まず、肥料の価格が実際どのくらい上がったのかを確認したいと思います。以下は、農水省の「農業物価統計」の肥料の価格指数をグラフにしたものです。この価格指数とは2020年を基準(指数100)として、その後の変動を表したものです。

これを見ると2022年6月から価格が大きく上昇して、2023年2月から5月にかけて155(2020年の1.55倍)までになり、その後、徐々に低下するかたちで2024年に至っています。つまり2022年の後半から2023年の前半にかけてのちょうど一年間、肥料は高価格で推移したことになります。

上記の農業経営体の肥料費は、2022年は10%程度の増加に留まり、2023年に大きく増加しているので、この価格指数と農家経営の間にはおおよそ数か月の時間差があると推測されます。また、価格指数の1.55倍と決算書の肥料費の1.34倍の差は、農家による代替品の活用などの“企業努力”の現れなのかもしれません。

しかしいずれにしても、肥料費は多くの経営体にとって減価償却費や荷造運賃手数料に次いで支出額の大きい費目なので、この急激な価格高騰は全国の農家にとって非常に厳しいものだったはずです。

canvas not supported …

露地・土地利用型の品目で肥料費が大きく増加

一言で肥料といっても品目ごとでその影響は違うはずです。以下は主要な経営品目ごと(第一主幹品目ごと)の肥料費の変化です。

キクを除く品目で肥料費の増加が確認されますが、特に大きいのは普通作、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンの各経営体です。ジャガイモ、タマネギに至っては肥料の価格指数の1.55倍に近い増加率で、値上がりの影響をもろに受けている状態です。

これらはいずれも露地・土地利用型ともいわれる作物で、上記の4品目以外にもブロッコリーやレタスなどの露地品目も、肥料費が大きく増加しています。これに対して、トマトやイチゴなどのハウス栽培が中心の品目の肥料費は、比較的小さな増加にとどまっています。ハウス栽培は施設内の環境管理や自動化がかなり進んでおり、過剰施肥等を防ぎやすいため、低い増加率にとどめることができたのかもしれません。

では、最終的な経営への影響はどうなっているのでしょうか。肥料費が大きく増加した4品目ごとに確認してみます。

肥料費の変化
2021年
(a)
2022年
(b)
2023年
(c)
(c)÷(a)(c)-(a)
普通作1,6431,8522,244136.6%602
トマト804871957119.1%154
イチゴ717733751104.7%34
キュウリ750775875116.7%125
ネギ8929991,053118.0%161
ジャガイモ4,1074,9866,163150.0%2,055
タマネギ4,2284,3966,639157.0%2,411
ミニトマト9169001,033112.8%118
スイカ9259021,016109.8%91
ニンジン2,4992,5623,388135.5%888
ブロッコリー1,4671,6541,806123.1%339
レタス1,5201,6471,912125.8%392
キノコ284429402141.5%118
カンキツ類594659712119.9%118
ブドウ311516332106.8%21
リンゴ282297293104.2%12
日本ナシ520557540103.8%20
モモ264308327123.9%63
キク73771268192.4%-56
花き(キク除く)542601677124.9%135

※金額の単位は千円

増加費用の半分が肥料費の普通作

まず普通作経営ですが、所得率は0.6ポイントとわずかに落ちているものの、世帯農業所得額は3.5%増加しました。厳しい中で健闘したといってよいでしょう。

但し、収入金額合計で1,319千円増加しているにもかかわらず、所得金額は僅か179千円の増加にとどまっているのは、はやり肥料費をはじめとする費用の増加が大きかったからでしょう。結果的に販売金額等の収益を伸ばすことで費用の増加に対応したように見えますが、費用の増加率ほどは収益の増加率が伸びなかったので、所得率を落としたというところでしょう。

いずれにしても2023年に増加した総費用1,140千円(1,319千円-179千円)のうち52.8%(602千円÷1,140千円)が肥料費のですので、やはり肥料費の増加は普通作経営に深刻な影響を与えたといえます。

普通作
2021年
(a)
2022年
(b)
2023年
(c)
(c)÷(a)(c)-(a)
経営体数2,9483,1243,069104.1%121
販売金額12,81913,10913,727107.1%908
雑収入7,7437,9738,092104.5%349
収入金額合計20,77121,34422,090106.4%1,319
世帯農業所得額5,0435,2595,222103.5%179
所得率24.3%24.6%23.6%97.4%-0.6%

※金額の単位は千円

大きく経営を悪化させたジャガイモ経営

次にジャガイモ経営です。

およそこの3年間で最も経営を悪化させた品目の一つではないでしょうか。所得金額は3,125千円、所得率は4.9ポイントも低下しています。

但し、収入金額合計の減少は3,196千円と、所得金額の減少額3,125千円とほぼ同額です。したがってこれを単純に見れば、2023年のジャガイモ経営の経営悪化の原因は、収益の減少にあると言うことができ、肥料費の影響はなかったようにも思えます。

しかし、次の繰戻額と繰入額の表をみると、そうではないことがわかります。費用総額に変化がないように見えているのは、「㉟経費計」の後の繰戻額(所得プラス要素)が582千円増加し、繰入額(費用プラス要素)が998千円減少しているからです。この繰戻額と繰入額のほとんどは「農業経営基盤強化準備金」の出し入れによるもので、経営者の判断によってほぼコントロールできるものです。これらがなければ、2023年の経費計は1,509千円増加しているということがわかります。

つまり、2023年のジャガイモ経営は、肥料費が2,055千円増加したものの、その他の費用を削減したことで何とか経費計では1,509千円の増加にとどめることができ、さらに「農業経営基盤強化準備金」で調整することで、2021年並みの費用に抑えることができたということです。

こうみるとジャガイモ経営の収益減少も、このような経費のやり繰りの結果(反動で?)生じたようにも思えなくもありません。つまり経費を削減するあまり収量(耕作面積)が減った、もしくは減らさざるを得なかったのではないか、ということです。そう考えるとやはり2023年の肥料費の高騰は、ジャガイモ経営に対しても大きな影響を与えたと思われます。

ジャガイモ
2021年
(a)
2022年
(b)
2023年
(c)
(c)÷(a)(c)-(a)
経営体数26221522485.5%-38
販売金額32,80035,77131,03094.6%-1,770
雑収入16,23113,08214,66790.4%-1,564
収入金額合計49,08148,77245,88593.5%3,196
世帯農業所得額13,72512,64110,60077.2%-3,125
所得率28.0%25.9%23.1%82.6%-4.9%
2021年
(a)
2022年
(b)
2023年
(c)
(c)÷(a)(c)-(a)
㉟経費計33,76635,71935,274104.5%1,509
繰戻額等 計1,0401,9681,621156.0%582
繰入額等 計
(専従者給与除く)
2,6312,3801,63362.1%-998

※金額の単位は千円

規模拡大が裏目か タマネギ経営

次は最も肥料費の増加が多かったタマネギ経営です。2021年と比較して2023年は所得金額が1,994千円増加したものの、所得率は1.4ポイント低下しました。所得金額が増加した理由は、販売金額が11,904千円と非常に大きく増加したことです。逆に言えば。これだけ販売金額が増加したにもかかわらず、所得は1,994千円の増加にとどまっているということは、費用の増加もかなり多かったことがうかがえ、それが所得率の低下という形に表れているのだと思われます。

費用の増加は、はやり肥料費の2,411千円が最も多いのですが、その他にも地代賃借料が1,318千円(132.6%)、減価償却費の894千円(121.4%)、農薬・衛生費の730千円(125.0%)と、全般的に大きく増加しており、費用総額では9,413千円の増加(11,407千円-1,994千円)となりました。原材料費の高騰に対し、規模拡大(スケールメリット)で対応しようとしたが、それが裏目に出たと読めなくもありません。これは普通作の傾向と似ていますが、普通作より収益の増加規模が大きかったため、その分費用の増加も大きかったということでしょう。

タマネギ
2021年
(a)
2022年
(b)
2023年
(c)
(c)÷(a)(c)-(a)
経営体数177214204115.3%27
販売金額45,05852,29156,962126.4%11,904
雑収入14,4887,76312,26784.7%-2,220
収入金額合計61,48461,17272,890118.6%11,407
世帯農業所得額16,18618,17118,179112.3%1,994
所得率26.3%29.7%24.9%94.7%-1.4%

※金額の単位は千円

2番手以下の品目の選択がポイントか

最後にニンジン経営を見てみます。
販売金額が3,573千円増加(113%)したものの、総費用を2,520千円(109%)に抑えられたことから、所得額が1,164千円増加し、所得率も0.7ポイントと僅かですが上昇させることができました。肥料費が大きく増加した品目の中では、唯一の所得率増加です。

肥料費のほか2021年と比較して大きく変動した費用は、荷造運賃手数料の895千円の増加(120%)と、地代・賃借料の667千円の減少(85%)です。

その他の生産費は概ね増加はしているのですが、全体的にはうまく抑えることができたのでしょう、ジャガイモ経営のように繰戻額や繰入額の大きな変動もありません。

ただの荷造運賃手数料の増加率が販売金額の増加率を上回っていることや、販売金額を増加させながら地代・賃借料が下がっていることなどから類推すると、販売方法や品目構成が2021年と変わっていることが推測されます。ニンジン経営は、多品目分散経営の傾向が非常に強いので(2023年の品目ごとの野菜経営ベクトルを見る)、第二品目以下の構成が変わった可能性があります。

ニンジン
2021年
(a)
2022年
(b)
2023年
(c)
(c)÷(a)(c)-(a)
経営体数7177105 147.9%34
販売金額26,63426,62330,207113.4%3,573
雑収入8,0067,1108,003100.0%-3
収入金額合計34,70034,32238,383110.6%3,684
世帯農業所得額8,4318,9529,594113.8%1,164
所得率24.3%26.1%25.0%102.9%0.7%

※金額の単位は千円

ということで、2番手以下の品目構成を確認します。

以下は、ニンジン経営とジャガイモ経営の2番手~7番手品目の販売金額を品目ごとに集計して、そのうちのトップ3品目の販売金額の割合をグラフ化したものです。

2023年のニンジン経営は2021年と比べ、甜菜の割合が2.6ポイント低下しています(11.6-14.2)。これに対して2023年に所得を大きく落とし、同じ多品目分散型でもあるジャガイモ経営は、甜菜の割合が大きく、かつ0.2ポイント増加しています(28.2-28.0)。甜菜は農作物の中で最も肥料を消費する品目の一つですが、この甜菜の作付け状況が2023年のニンジン経営とジャガイモ経営の明暗を分けたのかもしれません。

いうまでもなく甜菜の割合が低く、かつ減らしたニンジン経営は肥料費が高騰した2023年でも所得を上げることができ、甜菜の割合が多いままのジャガイモ経営は経営を大きく悪化させたということです。甜菜は、経営所得安定対策の対象品目でもあり交付金が見込まれる品目ですが、それがあっても肥料高騰の前では経営のマイナス要因となってしまったということでしょうか。

canvas not supported …
canvas not supported …

適切な経営判断をするためには

今回の肥料高騰のような、いわゆる外部環境の急激な変化は、経営をする上で非常に厄介な問題です。自分のコントロールが効かない課題が、いきなりやってくるわけですから、経営者が取れる手段が非常に限られるわけです。

農業分野では昔からこのような場合、行政が緊急対策を打ち出します。今回も国は「肥料価格高騰対策事業」を実施し、県単位でもそれに倣った対策が打ちだされました。しかし見てきた通り、少なくとも2023年の青色申告書上では、その効果を雑収入の増加や肥料費の減少などの形で確認することはできませんでした。

それでも、今回ニンジン経営で見られたように、作付け品目の構成や割合を変えるなどの対応で、何とか切り抜けられる場合もあります。そのために経営者は、自分の状況を常に理解しておいて、いざ危機に直面した時には、小さなことでもできる限りの対応を確実に行うといった姿勢が求められるわけです。現在の大規模化した農業経営では、一つ一つは小さなことでも最終的に大きな結果をもたらします。

農業も“技術”から“経営”の腕が、よりものをいう時代になってきました。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、肥料価格の高騰に起因する肥料費の増加が農業経営に及ぼす影響が明らかになりました。こうした農業資材の価格変動のリスクは、農業経営が直面している様々な営農リスクの中でも影響度が大きいリスです。

化学肥料が普及する以前は、多くの農家では、経営内や地域内にある様々な資源(家畜排泄物や草木・葉など)を有効活用して、たい肥や腐植土を生産し肥料として利用していました。こうした時代には物質循環としても、経営を取り巻く市場経済の変動リスクの影響も最小限にできるという意味でも、持続可能性が高い営農でした。

現代では、多くの場合、たい肥や腐植土などの肥料のみを利用するのは有機栽培などに限られますが、こうした有機栽培農家では、化学肥料の価格高騰の影響は受けなかったと思われます。化学肥料だけでなく有機肥料も使わない自然農法、自然農、自然栽培なども、肥料価格高騰の影響はありません。ただし、たい肥や腐植土の生産や施肥には、多くの労働力と時間がかかるなどのデメリットがあります。

このため、現代のほとんどの農家は、栽培管理し易い化学肥料を利用しています。肥料に限らず資材や労働力等を、経営内で自給するか、経営外から調達するかは、経営の理念や戦略に関わることで、重要な経営判断事項といえます。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所