農業利益創造研究所

作目

作物のベストミックスは? 複合経営の2番手以降の作物を確認する

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

経営規模が大規模化してくるにつれ、農家の作付け作物の種類も増える傾向にあります。そのように複合化している農家のメイン作物は、どのくらいの割合(主幹比率)なのでしょうか。また主幹比率が低い作物の2番手以降の作物は何が多いのでしょうか。

今回は2021年データの主要作物の経営体からそれらを確認してみます。

主要作物の主幹比率

以下の表は、収入金額合計が800万円以上の経営体を第一主幹作物ごと分けて、世帯農業所得率と主幹比率を表したものです(主幹比率=第一主幹作物の販売金額÷販売金額(合計)×100)。

これによるとジャガイモ、メロン、スイカ、主食米の主幹比率が低めとなっています。これらの作物をメインに作っている農家は、第一主幹作物以外の販売金額も比較的多く、作物分散型の経営体が多いと思われます。

この反対が、ブドウやイチゴの経営体で、主幹比率が9割近くとなっておりメイン作物への集中度が高くなっています。

平均
経営体数所得率主幹比率
ジャガイモ27828.0%46.6%
メロン10932.9%62.3%
スイカ11634.8%65.1%
主食米2,42223.7%66.9%
キュウリ20525.8%77.7%
玉ねぎ18626.4%77.8%
ネギ155 21.7%78.2%
ミニトマト12323.3%81.9%
トマト45124.9%83.1%
リンゴ25828.5%83.4%
ナス10329.3%83.8%
日本梨16339.0%85.1%
ブドウ26142.6%87.9%
イチゴ40734.3%88.4%

では、経営状況によって、これらの主幹比率に変化があるのでしょうか?作物ごとの世帯農業所得率上位20パーセントの層の農家(優良経営農家)と比較したのが以下の表です。

これによると、ジャガイモ、キュウリ、ミニトマトの高所得率層の経営体は、平均的な経営体よりも主幹率が高くなる傾向があります。つまりこれらの作物は、第一作物への集中度を高める方が、より所得率が高くなる可能性が有ると、少なくとも2021年のデータからは言えそうです。

あまりいろいろ手を広げない方が良いということなのでしょうか。それでもジャガイモなどは、主幹比率が53.6%と低く、優良経営農家層であっても分散型の作物であることには変わりがないようです。

尚、主食用米とネギは、若干ですが主幹率が低い方が所得率は上がっています。これらはより作物の分散を図った方がよい(≒2番手以下が重要)ということかもしれません。

所得率上位20%主幹比率差
経営体数所得率主幹比率
ジャガイモ 40 42.9% 53.6% 7.0%
メロン 41 46.5% 65.6% 3.3%
スイカ 50 43.4% 65.5% 0.4%
主食米 277 43.2% 62.6% -4.3%
キュウリ 35 44.5% 85.1% 7.4%
玉ねぎ 21 42.8% 80.5% 2.7%
ネギ 26 46.3% 74.7% -3.5%
ミニトマト 17 44.7% 91.9% 10.0%
トマト 68 43.7% 85.2% 2.1%
リンゴ 61 44.6% 83.8% 0.5%
ナス 23 43.9% 87.5% 3.7%
日本梨 90 47.1% 89.6% 4.5%
ブドウ 157 51.8% 90.4% 2.5%
イチゴ 161 47.6% 89.0% 0.7%

それでは主幹比率が低い作物は、どんな作物を2番手以降に作っているのでしょうか。主幹率が低い作物で、所得率が高い経営体の状況を見れば、作物の“ベストミックス”が見えてきそうです。

ジャガイモ

まずジャガイモの経営体ですが、麦と甜菜との兼営が多く優良経営体40件のうち、麦が28件で甜菜が20件となりました。甜菜や麦が多いのは、ジャガイモ農家のほとんどが北海道であることが原因と思われます。

これら40件のジャガイモ農家のジャガイモの販売金額は平均14,736千円なので、例えば麦との兼営なら、ジャガイモ3.3:麦1、甜菜との兼営ならジャガイモ2.3:甜菜1というのがジャガイモ農家(主に北海道)の優良経営体の販売割合かもしれません。

作物 経営体数 平均販売金額
28 4,486千円
甜菜 20 6,398千円

メロン

メロンを一番に作っている優良経営体41件の2番手以降は以下の作物となりました。

昔からトマトやミニトマトはメロンと相性が良いとよく言われていましたが、そのことはこのように統計データにも現れているようです。メロンの優良農家のメロンの平均販売金額が12,378千円なので、ミニトマトと兼営ならメロン3:ミニトマト1、トマトとならメロン4:トマト1と言ったところでしょうか。

作物 経営体数 平均販売金額
ミニトマト 22 4,651千円
主食米 17 597千円
トマト 8 3,290千円

スイカ

スイカをメインにしている優良農家50件の2番手以下の作物は、主食用米が最も多く、次いでホウレンソウと小松菜がそれに続くと言った形です。このスイカの優良農家のスイカ販売高は17,077千円なので、主食用米とは17:1の割合となり大きな差があります。およそスイカ農家は2番手以降の作物も少量多品目化しており、ここで挙げた以外にも多くの種類の作物をつくっていると思われます。

作物 経営体数 平均販売金額
主食米 34 1,025千円
ホウレンソウ 11 1,848千円
小松菜 10 1,575千円

主食米

主食米と組み合わされる作物は、麦、大豆、加工米、飼料用米、ソバとなり、これらは言わずと知れた転作作物です。これらは販売金額こそ大きくありませんが、交付金収入が見込まれるので、大きな収益源であることに間違いはないでしょう。

これら主食米の優良経営体277件の平均雑収入金額(うち多くは交付金)は8,514千円となります。第1作物の主食米の販売金額が10,718千円なので、転作作物の販売高と交付金を合わせると概ね1:1ぐらいになっているのかもしれません。

やはり普通作経営は、転作をうまく利用するのがポイントですかね。

作物 経営体数 平均販売金額
96 1,280千円
大豆 80 1,007千円
加工米 70 1,766千円
飼料米 31 459千円
ソバ 30 447千円

以上のとおり、第一主幹比率が低い作物の二番手以降の作物の内容を見てきました。複合経営での作物の組み合わせは、作業の段取りをはじめ、生産設備の活用の仕方などに大きく影響します。経営においてもメイン作物に注目が行きがちですが、実は二番手以降の作物との組み合わせも非常に大きな経営要因であり、大規模化するにつれその重要性は増してくるのではないかと思われます。

今後も分析手法を高め、これらのデータを提供していきたいと考えます。

南石名誉教授のコメント

幾つかの作目を組み合わせることで、農業経営はいろいろな恩恵に預かれます。例えば、個々の作目には多くの場合、作業の季節性があり農繁期と農閑期が生じ労働ピークができます。

組み合わせる作目をうまく選択すれば、労働ピークが平準化でき、経営全体の経営規模の拡大が可能になります。また、組み合わせる作目で共通に使える機械や施設の稼働率が向上し、コスト低減にもつながります。さらに、組み合わせる作目の収量や価格の年次変動が逆(負の相関)の場合には、経営全体の収入変動リスクが軽減され経営の安定化に繋がります。

今回の分析では、経営体数が必ずしも多くないので、断定的なことは言えませんが、上述の見方にあった興味深い傾向が見られます。今後のさらに詳しい分析が期待されます。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所