
個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
総務省が公表した家計調査結果によると、2023年度の牛肉の購入量は約6%減少しているということです。
サシの入った高級牛肉は、若者は値段が高いため手が出せず、高齢者は脂身が苦手で購入を控えてしまう、いわゆる「牛肉離れ」が起こっているのです。
よって、市場価格が下落し、さらに飼料コストは増加しているという板挟み状態で、肉用牛経営は厳しい状況にあります。
今回は、2023年の肉用牛経営(繁殖経営・肥育経営)の農業簿記ユーザー323件のデータを分析してみたいと思います。
肉用牛経営3年間の推移
肉用牛経営の収入金額や農業所得などの経営概況がこの3年間でどう推移したかを調べたところ下のようなグラフになりました。
収入金額は年々減少し、経営費は2022年に増えましたが2023年には減少し、世帯農業所得(特別控除前農業所得+専従者給与)も所得率も減少しています。
おそらく、2022年に飼料が高騰して厳しい経営になったので、牛の頭数を減らしたため売上も経費も減少したのではないかと思われます。世帯農業所得の平均が217万円では経営継続が厳しい数字です。
肉用牛経営の特徴を探る
肉用牛経営323件を、横軸に収入金額、縦軸に世帯農業所得として散布図のグラフを作成してみました。農業所得がマイナスの経営がかなり多い(全体の35%)ことが驚きです。
中規模経営である収入金額3,500~6,500万円の階層で農業所得が約1,000万円の経営①と、所得が赤字の経営②、そして収入金額8,500万円~1億5,000万円で農業所得1,200万円以上の経営③を分析し、どのような特徴があるか調べてみました。
散布図の中の3パターンの経営を分析し、下の表のようになりました。
①中規模高所得経営
●稲作の複合経営を行っている農家が多い
●素畜費が少ない(自分で繁殖を行っている)
●飼料費が少ない(牧草を自分で生産している)
②中規模低所得経営
●複合経営していない、飼料費が多い
●減価償却費が多い(繁殖のための成牛)
●建物・構築物資産が多く、借入金も多い
②大規模高所得経営
●素畜費が多い(子牛を購入している)
●飼料費が少なめ(自給飼料)
| ①中規模高所得 | ②中規模低所得 | ③大規模高所得 | |
|---|---|---|---|
| 収入金額 | 52,270 | 50,376 | 111,607 |
| うち肉用牛 販売金額 | 37,184 | 36,569 | 86,790 |
| うち稲作 販売金額 | 2,469 | 59 | 1,558 |
| 世帯農業所得額 | 11,419 | -4712 | 16,573 |
| 世帯農業所得率 | 21.8% | -9.4% | 14.8% |
| 素畜費 | 8,407 | 10,214 | 27,966 |
| 素畜費率 | 22.6% | 27.9% | 32.2% |
| 飼料費 | 14,557 | 19,784 | 37,803 |
| 飼料費率 | 39.1% | 54.1% | 43.6% |
| 減価償却費 | 5,568 | 9,539 | 5,201 |
| 減価償却費率 | 15.0% | 26.1% | 6.0% |
| 建物・構築物 資産 | 12,441 | 21,523 | 9,367 |
| 農機具 資産 | 11,298 | 12,464 | 10,144 |
| 牛馬等 資産 | 5,706 | 15,910 | 2,626 |
| 借入金 | 23,655 | 36,242 | 19,076 |
| 収入金額対借入金率 | 45.3% | 71.9% | 17.1% |
※金額の単位は千円。
つまり整理すると、
①中規模高所得:稲を餌にして購入飼料を少なくしている「繁殖・肥育一貫経営」
②中規模低所得:購入飼料が多い「繁殖経営」
③大規模高所得:購入飼料が少なめの「肥育経営」
ということになります。
下のグラフを見ても、小規模経営は繁殖経営が多く、大規模経営は肥育経営が多いということがわかります。2つの折れ線が交わる収入金額約5,000万円程度は、「繁殖・肥育一貫経営」であり、高所得経営が多いのです。
農業王2連覇した経営の秘訣
ソリマチと当研究所で、持続可能な優良経営を行っている農家を「農業王」として毎年表彰しています。
山梨県韮崎市で肉用牛経営を行っている「猪股牧場」さんが2024年農業王を受賞(2連覇)しましたので、インタビューして経営の秘訣を聞いてみました。まとめると、
●繁殖・肥育一貫経営、及びぶどう栽培の複合経営
●黒毛和牛でA4ランク以上に格付けされた「山梨県の甲州牛」を肥育
●収入金額は約4千万円超(前述した②中規模高所得に入っている)
●世帯農業所得率23%と高い(4千万円規模の全国平均の所得率は11%)
●繁殖40頭、肥育80頭の計120頭で、年間35~40頭の出荷
●素畜費が非常に低い
●ぶどうの販売収入で牛の餌を購入している
という特徴がありました。「猪股牧場」さんのインタビュー記事と合わせて、ぜひ参考にしてください。
まとめ
肉用牛経営は繁殖経営と肥育経営に大きく分かれますが、今回の分析で「中規模で 自給飼料による繁殖・肥育一貫経営」か、もしくは「大規模で自給飼料による肥育経営」が高効率の良い経営であるということがわかりました。
農林水産省の資料では、肉用牛経営体数は減少しているが大規模経営体は増えているとのことです。日本にとって大事な和牛のために、国の支援、新規就農支援、スマート農業活用、ヘルパー支援、輸出支援など、国や地域全体で知恵を出していきましょう。
関連リンク
農業王二連覇!繁殖・肥育を一貫して手掛ける家族経営【農業王2024:猪股牧場】
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、肉用牛経営を対象に高所得経営と低所得経営の比較を行い高所得経営の特徴を明らかにしました。高所得経営に共通する特徴の一つは、購入飼料が少ない、自給飼料の割合が高いことが明らかにしました。購入飼料の価格高騰が大きな経営課題となっている状況と整合的な結果といえます。
生産要素市場価格の高騰は、生産物の価格低下と共に、主要な市場変動リスクの代表例です。生産要素の市場価格変動リスクへの対処方法としては、生産要素の自給が有効です。
生産要素の市場価格が低下している状況では、生産要素を市場(経営外部)から購入した方が生産コストを抑えられます。しかし、生産要素の市場価格が高騰したからといって、飼料を急に自給することは困難です。市場リスクに備えるためには、日頃から備えておく必要があり、そのためのコストをどの程度許容するかは、重要な経営判断になります。
