農業利益創造研究所

作目

いちごだけじゃない! 栃木県の農業経営を概観する

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

前回の「農業利益創造研究所のデータ分析を分析する」では、農業利益創造研究所のデータシェアを確認しました。このデータシェアが高いということは、それだけ分析の精度も高くなるということですが、栃木県はこのデータシェアで2番目に高い県であることがわかりました。そして農業産出額でも全国10位という農業県でもあります。今回は、この栃木県の農業経営の状況を見てみたいと思います。

主要品目の経営概要

以下は、2023年の栃木県のデータ数が多い上位6品目の経営概要です。この6品目は県としての主要品目でもあるので、県の農業生産の実態に応じたデータ数とも言えます。県の状況を分析するには大変好ましい状態です。

第一主幹品目件数販売金額収入金額計世帯農業所得世帯農業所得率
16510,86419,2675,21827.1%
イチゴ16022,37923,9209,13038.2%
トマト4624,25327,0295,56420.6%
ニラ4112,50814,9825,29735.4%
牛乳4086,72197,9558,8789.1%
日本ナシ3324,78026,29310,99341.8%
栃木県平均68222,89727,6906,79324.5%
全国平均11,65518,72423,7595,66423.8%

※“米”とは、主食米、加工米、飼料米を合わせたもの。

また、以下は2022年からの経営の動き(ベクトル)を表したグラフです。併せてみていきます。

栃木県は全国平均と比べると4百万円ほど経営規模(収入金額合計)が大きいようです。2023年には所得率(世帯農業所得率)も上がり、全国平均よりも若干高くなりました。酪農経営が盛んであることが平均規模の大きさにつながり、平均所得率は所得率が低い酪農と高い日本ナシ経営やイチゴ経営などが相殺されて、全国平均レベルになったということでしょう。

主要品目ごとに見るとまず牛乳(酪農経営)ですが、収入金額合計は約1億円程度です。おおよそ頭数でいうと100頭前後というところでしょうか。北海道に次ぐ酪農県だけあり、都府県では多い方だと思われます。世帯農業所得は8,878千円ほどありますので、なにかと厳しい話題が多い酪農ですが、栃木県の経営は安定している方と言えるでしょう。

日本ナシ、イチゴ、ニラは高い所得率となっています。日本ナシ経営やイチゴ経営は、世帯農業所得も1千万円程度あるので、普通のサラリーマンよりははるかに高所得です。栃木県で農業をやるなら、やはりこれらの品目がおすすめでしょうかね(笑)。

栃木県のニラ経営は、高知県などと比べても規模が小さいようです。したがって所得率は高くとも所得金額は高くなりませんでした。規模をどれだけ大きくできるかが経営上のポイントかもしれません。

トマトは野菜の中では経営規模が大きめですが、所得率は全国のトマト経営が25.9%なので低い状態にあります。2023年はそれでも改善している方ですが、概して所得率の低さを規模で補っているようにも見えます。

地区ごとの経営状況

次に栃木県の市町村を図のように5地区に分けて、地域ごとの状況を見てみます。

各地区の経営ポジションは以下の図のようになります。

経営規模では北西地区、所得率では中央地区が高くなり、所得金額の高さは、北西>中央>南西>南東>北東という順になります。

では北東地区(那須塩原市・大田原市ほか)から見ていきます。

主要な経営作物ごとの経営概要は以下の通りです。栃木県内では最も酪農が盛んな地域で農業産出額も最も大きい地区です。したがって規模は大きめですが、所得率は低くなっています。良くも悪くも地区平均が酪農経営の影響を強く受けているといえます。

第一主幹品目件数販売金額収入金額計世帯農業所得世帯農業所得率
6412,76720,6005,52826.8%
イチゴ1416,68118,6035,91331.8%
牛乳2380,61490,8227,9208.7%
北東地区平均17727,04332,8586,08118.5%

続いて北西地区(日光市)です。山間地でもあることから農業産出額自体は最も低い地区なのですが、農利研のデータでは規模や所得金額で最も大きくなりました。これはホウレンソウ経営など、数は少ないものの億単位の販売金額がある経営体がデータの中に含まれており、地区の経営体数の少なさと相まって地区平均を大きく押し上げたからです。経営体数は少ないながら、大規模経営体が多い地区ということなのかもしれません。

但し、米も県内で最も高い所得率となっています。河川の上流地帯であることでおいしい米ができ、観光地であることなどもあってブランド化がうまくいっているのかもしれません。

第一主幹品目件数販売金額収入金額計世帯農業所得世帯農業所得率
1610,62921,7966,24428.6%
北西地区平均4028,23636,8048,11522.1%

次は、中央地区(宇都宮市・鹿沼市・さくら市ほか)です。この地区割りでは米と果実の農業産出額が県内で最も高く、農利研の経営データの件数も最も多い地区です。宇都宮市という県都を含むことと、平地と山間地とのバランスの良さなどから、様々な形態の経営が可能な地区のように思えます。

イチゴや日本ナシ、ニラなどの県の代表的作物で所得率の高い経営体のデータが多いので、最も所得率の高い地区となっています。特に日本ナシ経営は、全国平均と比べても非常に大規模で優良な経営体が多いことがうかがえます。(日本ナシ経営の全国平均:総収入金額合16,160千円、所得率38.2%)。

尚、この中央地区の日本ナシ経営の各費用の割合(各費用÷収入金額合計)を全国平均と比較したところ、特に割合の小さい費用はありませんでした。ではなぜ所得率が高いのかについては千葉県や茨城県という日本ナシの大産地データが少ないのでなかなか言い切れませんが、もしかしたら栃木県の日本ナシ経営は、費用ではなく収益面に特徴があるのかもしれません。つまり単収や単価が他県と比較して高く、それが所得率の高さの原因になっているということです。

栃木県の開発した“にっこり”は収穫時期が10~11月と遅いので、夏から収穫が始まる幸水や豊水と組み合わせれば、長期間出荷することができます。これが収入金額の大きさにつながっているとも考えられます。

第一主幹品目件数販売金額収入金額計世帯農業所得世帯農業所得率
3810,17417,0114,83028.4%
イチゴ8221,84822,9299,03039.4%
トマト2421,22722,9135,98526.1%
ニラ2012,28814,3674,81033.5%
日本ナシ1629,66431,07213,28842.8%
中央地区平均22421,18324,2727,15829.5%

次は、南東地区(真岡市、茂木町ほか)です。

この地区区分だと北西地区(日光市)の次に農業産出額の低い地区なので、データ件数も多くなく目立った特徴はありません。しかし、日本一のイチゴ産地である真岡市だけのイチゴ経営をみると、所得率は40.6%で所得金額は10,199千円と非常に高い成績となっています。栃木県のイチゴ経営を引っ張っている地区ともいえるでしょう。

第一主幹品目件数販売金額収入金額計世帯農業所得世帯農業所得率
237,92516,6453,89123.4%
イチゴ1824,05525,6289,19935.9%
南東地区平均7622,95328,1246,63623.6%

最後に南西地区(栃木市、佐野市ほか)です。南西地区は野菜の農業産出額が県内一で、農利研の経営データでも、多様な品目の経営体が確認されます。栃木市はブドウの産地でもあり、全国的にみても経営規模は大きめで所得金額も高くなっています。

第一主幹品目件数販売金額収入金額計世帯農業所得世帯農業所得率
249,85820,1125,59227.8%
イチゴ4524,53526,38810,25138.8%
トマト1426,31031,5484,56814.5%
ニラ1210,67613,3895,15238.5%
ブドウ1118,69319,2197,65339.8%
138,41522,3256,84030.6%
南西地区平均16519,45524,3756,81227.9%

尚、栃木県のトマトの所得率がデータ上低いのは、この地区の影響のようです。中央地区や全国平均と比較すると、南西地区のトマト農家は、動力光熱費、減価償却費、雇人費が多い傾向にあります。動力光熱費が多いのは栃木県としての特徴なのかもしれませんが、減価償却費や雇人費が多いのはこの地区の特徴です。特に雇人費は、専従者の数が多いにもかかわらず多めになっています。

これらの理由は、南西地区のトマト経営体は第一主幹比率が低く、他品目の割合が多くなっているからではないかと思われます。つまり分散型経営なので、減価償却費や雇人費などの固定費が高くなってしまっているということです。

南西地区中央地区全国平均
動力光熱費12.0%11.1%7.0%
減価償却費8.8%7.1%7.4%
雇人費9.6%6.6%6.3%
専従者数2.11.61.3

※比率は収入金額合計との各費用の割合。

南西地区中央地区全国平均
トマト販売高21,84518,82314,978
収入金額合計31,54822,91320,061
第一主幹比率69.2%82.2%74.7%

以上、栃木県の農業経営を見てきました。栃木県はどこの地区もそれなりに農業経営ができる地域で、主要品目の多くは高い経営成績を上げています。特に日本ナシやブドウなどの果樹経営は、全国平均とくらべ規模が非常に大きいのが特徴的です。

私は18年間、茨城県に住んでいましたが、隣から見る栃木県はまとまりがあって、堅実な県民性という印象を持ちました(あくまで茨城との比較かもしれませんが・・・)。また昔から東北道という“大動脈”が、県の中央を流れていることで、人やモノだけでなく、文化や情報の流れも活発で“そつがない”といった印象もあります。そういう環境ではぐくまれた県民性が、もしかしたら農業経営に良い形で表れているのかもしれません。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、主要作目別にみた栃木県の農業経営の特徴が明らかになりました。まず、第一主幹品目別にみると、米、イチゴ、トマト、ニラ、牛乳、日本ナシの順に分析対象農家数が多いことが確認できます。

米農家はほとんどの都道府県で一番多いので、それ以外の品目に着目すると、とちおとめに代表されるイチゴの農家数が2番目に多いことが確認できます。また、酪農県もイメージ通り、酪農農家数もベスト5に入っています。

トマトやニラのイメージは栃木県にはあまりない印象ですが、農家数は酪農よりも多くなっています。

世帯農業所得をみると、イチゴと酪農が第1位と第2位で約900万円前後で格段に高いこと、第3位以降(トマト、ニラ、米)は500万円台であることが明らかになりました。やはり、イチゴと酪農は、イメージ通り、栃木県の農業を特徴づけていると言えそうです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所