農業利益創造研究所

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2022年の経営はどのように推移したか 経営ベクトルで考える。

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2022年の農業簿記データが集計できたので、今回は前年からの経営の動きを大きな視点で確認していきたいと思います。

確認する手法は、前にも行った経営規模(収入金額合計)を横軸に取り、経営効率(世帯農業所得率)を縦軸に取って、各地域や経営類型がどう変化をしたか(ベクトル)を図示するものです。
では全体から見てみましょう。

2022年は経営規模・経営効率ともにわずかに低下

以下は2022年の11,560世帯の経営データと2021年の11,134世帯の平均値の変化を比較したものです。
収入金額合計で174千円、所得率で1.1%と若干ですが共に低下しています。このように右下に移動しているわけですから、世帯農業所得額も確実に減少しているでしょう。

低下の理由は、およそ原油等の資材価格の高騰によるものが大きいと思われます。いずれにしても2022年の農業経営を一言でいえば、若干厳しい年だったといえます。

各地域で所得率が大きく低下

地域別のベクトルは以下の通り“どしゃ降り”です。矢印の動きが下に向かっているのは所得率が低下したことを表しており、左右への動きが小さいので、所得率低下の原因は、収入金額の増減ではなく経費が増えたことだと思われます。2022年はこのような地域がほとんどで、資材高騰等の影響は全国に及んでいたことが一目でわかります。

しかしその中でも北陸地域は上向きであり、また東北地域の下がり幅も小さくなっています。この二つの地域は、経営作物における普通作の割合が比較的高い地域です。

北海道が規模的に飛びぬけていることは2022年も変わりません。東海、四国地域の所得率が比較的高いのは、所得率の高い果樹、花き、工芸作物を主にしている経営体の割合が多いからでしょう。

経営体数
北海道1,855
東北2,096
関東・甲信1,987
北陸800
東海856
近畿448
中国1,012
四国935
九州・沖縄1,263

工芸作物と畜産経営体が大きく所得率を落とす

以下は作物類型ごとのベクトルです。ほとんどの経営作物の所得率は低下しており、特に畜産と工芸作物を主に経営している経営体の落ち込みは大きくなりました。

これに対して普通作経営は非常にわずかですが収入合計と所得率が上がっています。普通作経営は収入における交付金の割合が高いため、資材価格の高騰等の外部環境の悪化にも耐性は強いのでしょう。

野菜経営や果樹経営の所得率も下がってはいますが落ち込みはわずかです。普通作と野菜、果樹を主にしている経営体数は農業経営体全体の中で多いため、全体を平均すると所得率の下げ幅は小さく見えます。

しかし畜産経営などを個々にみると、酪農と肉牛経営は共に所得率が5.1%も低下しています。もともと所得率の低い畜産経営にとって、5.1%の低下は非常に大きく、2022年は大変苦しい年だったことがここからも伺われます。

経営体数
普通作3,122
野菜4,453
果樹1,953
酪農277
肉牛286
その他畜産105
花卉601
工芸317

普通作経営は北陸、近畿、四国で大きく所得率を上げる

以下は地域別の普通作経営の状況です。北陸、近畿、四国地域が大きく所得率を上げており、特に石川県(6.7%増)などの増加が目立ちます。また北海道、関東甲信、中国地域では収益規模も若干ですが増加しています。

東北や東海地域では所得率は下がっていますがわずかであり、全国的に2022年の普通作経営は悪くなかったといえそうです。

経営体数
北海道876
東北811
関東・甲信298
北陸529
東海58
近畿148
中国166
四国37
九州・沖縄115

野菜経営は北海道以外の地域は軒並み所得率が低下

野菜経営もほとんどの地域で所得率を大きく下げています。近畿と四国地域の所得率は、普通作の上昇を丸々打ち消すぐらい落ち込んでいます。徳島県では5.4%、山口県では4.8%も所得率が低下しました。
これに対して北海道の野菜経営の安定的な強さが目立ちます。

経営体数
北海道763
東北533
関東・甲信892
北陸121
東海520
近畿135
中国396
四国381
九州・沖縄609

果樹が盛んな県では収益規模や所得率が大きく低下

果樹経営では、北陸、東北地域が所得率を上げているだけで、他は大きく下がっています。とくに果樹が盛んな和歌山県(収入金額が1,684千円減、所得率6.6%減)、岡山県(所得率2.4%減)、愛媛県(収入金額が635千円減、所得率3.4%減)と、軒並み成績を落としています。

経営体数
北海道13
東北390
関東・甲信432
北陸72
東海73
近畿68
中国286
四国414
九州・沖縄155

酪農はすべての地域で所得率が低下

酪農経営では、どの地域も例外なく大きく所得率を低下させており、北海道では5.7%、東北地域では5.5%、関東・甲信地域では4.8%所得率が低下しました。その中で中国や九州・沖縄地域などでは収益規模が増加していますが、北海道などでは収益規模も7,532千円縮小しています。2022年が全国の酪農経営に大きなダメージを与えたことがわかります。

経営体数
北海道49
東北45
関東・甲信82
北陸16
東海9
近畿9
中国33
四国6
九州・沖縄20

肉用牛も主要な産地では所得率が低下

肉用牛経営が比較的多い、東北、関東甲信、中国、九州・沖縄では大きく所得率を落としています。中でも中国地域では7.2%、九州・沖縄地域は8.9%も所得率が低下しています。酪農同様に飼料代などの高騰が、大きく経営に響いていると思われます。

その中でも東北地域の収益規模が、6百万円ほど上がっていることが明るい材料でしょうか。

経営体数
北海道11
東北64
関東・甲信33
北陸4
東海9
近畿7
中国29
四国8
九州・沖縄107

以上の通り、2022年は下向きのベクトルが目立ち、畜産経営体を中心に非常に厳しい年だったと思われます。ウクライナ戦争や円安、そして酷暑などが2023年の農業経営にどのような影響を及ぼすかはわかりませんが、各地域、各分野で是非V字回復して欲しいと思います。

関連リンク

農業利益創造研究所「経営ベクトルで見る! 1年で全国の農業経営はどう変化したか

南石名誉教授のコメント

農業生産は天候の影響を受けるため、収入や所得率も年次変動に着目することは重要なことです。今回の分析では、全国的に見れば2021年から2022年にかけて多くの作目で収入も所得率も低下する傾向がみられる中で、普通作経営では低下傾向はみられません。

知り合いの大規模稲作経営者からは、2022年は増収増益であったとの話がありました。地域的にみると、北陸、近畿、四国では、所得率も収入も大きく向上しています。北海道、関東甲信、中国では、若干ですが収入の増加傾向がみられます。

全国的に見れば、水稲の10a当たりの収量は2021年と2022年で同程度でしたが、地域的な特徴もあります。普通作で何故、他作目と異なる傾向がみられるのか、今後の分析が期待されます。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所