
個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
帝国データバンクから、2025年2月現在の「カレーライス物価指数」調査結果が発表されました。
カレーライスといえば、安くておいしいイメージがある食べ物ですが、最近のお米と野菜の物価上昇により、1食のコストは2020年の約1.5倍の407円になったということです。
今回は、お米ではなくて、カレーの具材であるタマネギ、ニンジン、ジャガイモに焦点を当てて調べてみます。この3つの野菜の生産量トップの都道府県は北海道ですので、北海道の農家に絞って、3つの野菜経営は儲かっているのかを探ってみます。
北海道は高所得
北海道で3野菜を生産している農家は、ほとんど複合経営(麦や甜菜)をしていますが、3野菜それぞれの販売金額割合が50%以上の経営250件を分析しました。
下記の表は、3野菜経営の北海道と都府県平均の比較です。
北海道のタマネギは、収入金額が都府県の4倍という大規模経営、世帯農業所得(特別控除前農業所得+専従者給与)は4倍の2,040万円という高所得です。
ニンジンは、収入金額が都府県の3倍、世帯農業所得は3倍の1,640万円。ジャガイモは、収入金額が都府県の3倍、世帯農業所得は4倍の1,1600万円です。
つまり北海道は大規模経営で効率を上げ、高所得を得ていることがわかります。
| タマネギ | ニンジン | ジャガイモ | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 都府県 | 北海道 | 都府県 | 北海道 | 都府県 | |
| 収入金額 | 82,100 | 20,784 | 70,637 | 22,533 | 49,879 | 14,923 |
| 世帯農業所得 | 20,413 | 5,618 | 16,492 | 5,658 | 11,666 | 2,638 |
| 世帯農業所得率 | 24.9% | 27.0% | 32.0% | 25.1% | 23.4% | 17.7% |
※金額の単位は千円。
次に、北海道内での3野菜の経営を比べてみましょう。
下のグラフを見ると、経営の規模は玉ねぎが1番大きく、次がニンジン、3番目がジャガイモです。農業所得もこの順番となっていますが、いずれも所得1,000万円以上ですから本当に北海道は農業王国だと言えます。
3野菜の経費構成
先ほどのグラフを見ると、世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額×100)は、ニンジンが1番高くなっています。
ニンジンが一番効率の良い野菜なのか、もしもそうだとしたらそれはなぜか、経費構成を比べてみましょう。
3つの野菜において、販売金額を100とした主要費用の比率をグラフにしてみました。3野菜とも似たような費用構成ですが、以下の点に多少違いが見られました。
〇ジャガイモは肥料費と減価償却費が高い
〇ニンジンは地代賃借料が高い
〇タマネギは荷造運賃手数料が高い
タマネギの荷造運賃手数料が高い理由は定かではありませんが、もしかしたら北海道のタマネギは加工・業務用が多く、それらの加工の手数料がかかっているのかもしれません。
ニンジンの地代賃借料が高いのは、北海道のJAで行っている「作業受委託方式」によるものだと思われます。
この方式とは、播種、培土、収穫などの作業を、JAが農業機械を所有して生産者の代わりに作業を行う方式です。これにより、農家は大規模に作付けでき、設備投資も雇人も少なくすることができ、高効率経営になっているのです。
3野菜の月別販売金額
次に、3野菜の月別販売金額のグラフをご覧ください。
タマネギは7月出荷が突出して多くなっています。時期を分けることなく一気に収穫し加工や貯蔵をしているのではないかと読み取れます。
ニンジンの収穫時期 は一般的には7月から11月までなのですが、このグラフを見ると、北海道では遅い時期の11月に収穫しているようです。
ジャガイモの収穫時期は一般的に9月から10月なのですが、北海道では7月に新じゃがとして多く出荷しています。
またジャガイモの卸売市場の単価を調べてみると、7月に一番単価が高くなります。つまり、もっとも単価が高い時期に、出荷を増やしているということでしょう。農業王国の北海道は、生産者とJAが地域全体でうまく生産・出荷をコントロールしているのだと思われます。
まとめ
都府県では農地面積の制約があり、北海道のような大規模経営は難しいかもしれませんが、出荷時期なども含めて北海道のやり方を参考にすれば、まだまだ効率経営&高所得経営&低コスト生産が可能だと思われます。
このコラムを書いているのは5月初旬頃で、アメリカとの関税を交渉している最中です。交渉次第では、アメリカから輸入する農産物が増えるかもしれないと騒がれています。
今回分析したタマネギ、ニンジン、ジャガイモはいずれも外国からの輸入量がトップクラスの野菜であり、特にタマネギは国内生産量の約20%ほどが輸入されているとのことです。北海道の大規模経営で生産された野菜と、輸入した野菜のどちらが価格が低いかは現状では定かではありませんが、作物を輸入に頼るのはさまざまなリスクがあります。
いずれにしても、おいしくて安いカレーライスを食べられるよう、日本の野菜農家は頑張って頂きたいです。
関連リンク
帝国データバンク「カレーライス物価指数」調査
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、北海道の土地利用型農業の主要作目であるタマネギ、ニンジン、ジャガイモの特徴が明らかになりました。 販売金額に対する費用比率は、タマネギでは荷造運賃手数料、肥料費、地代賃借料、ニンジンでは地代賃借料、荷造運賃手数料、肥料費、ジャガイモでは肥料費、荷造運賃手数料、減価償却の順に大きくなっています。
荷造運賃手数料と肥料費は3品目とも上位3位に入っています。地代賃借料は、2品目で上位3位に入っています。これらの経費は、北海道の土地利用型農業に共通する費用と言えます。
都府県の土地利用型農業では、しばしば減価償却の削減が課題になりますが、北海道では面積規模拡大が進んでおり、すでに減価償却はかなり低下していることもわかります。都府県の土地利用型農業でも、農業法人化により規模拡大が進んでいますが、雇用労働力が主体の法人経営では、雇人費の比率が高くなる傾向があります。これに対して、北海道の土地利用型農業では雇人費の比率が低く、家族労働力主体の農家が多いと推測できます。
